エリザベス女王学んだ「世界最強の帝王学」とは? 「学校に通わずに」身に付けたことは、なにか

(オイチョ/ PIXTA)
世界における英連邦王国の影響力の強さ、女王即位直後、第2次世界大戦後の大英帝国の崩壊から、戦後復興を進めながら、国の統治を進めるという難局を乗り切った事実、そしてプライベートでも、結婚、4人の子女(3男1女)の子育て、チャールズ元皇太子妃ダイアナの死や孫のヘンリー王子の王室離脱など多くの課題を乗り越えてきた。そんなエリザベス女王が学んだ帝王学は、まさに世界最強と言ってもいいのではないだろうか。
英国史上最長の君主であるエリザベス女王。しかし、エリザベス女王の学歴を調べてみると、驚くことに学校に通ったという経歴はない。帝王学は、宮殿でエリザベス女王の妹であるマーガレット王女とともに、宮廷家庭教師クローフォードから学んだのである。ここに、クローフォードが宮廷家庭教師として過ごした日々を回顧し綴った『王女物語 エリザベスとマーガレット』(著者マリオン・クローフォード 訳者中村妙子 みすず書房)という本がある。その本を参考に、エリザベス女王の受けた帝王学について触れてみたい。
宮廷家庭教師クローフォードは、スコットランドの平民の家庭に生まれ、児童心理学を学んだ。当時、上流階級の女子には、教育は必要ではないという考え方が多くあったが、エリザベス女王の祖母メアリー王妃は上流階級の女子にも教育が必要であると考え、明るく元気で体力のある教師を探していた。そんな折、エリザベス女王の父であるヨーク公の耳に、クローフォードのエピソードが入ってきた。その頃、クローフォードはエリザベス女王の伯母に当たるレディー・ローズの娘の家庭教師をしていた。彼女は、馬車も車も使わずにレディー・ローズ邸まで自宅からの長い距離を歩いて通っており、そのエピソードに好感を覚えたヨーク公は、面談のうえ、クローフォードに宮廷家庭教師を依頼することにしたのである。
エリザベス女王がクローフォードと学んだのは10歳から18歳だった。人格形成の土台ともいえる時期だ。その後、実際の公務で帝王学を実践した18歳以降を帝王学後期とすれば、この時期は帝王学前期だったといえよう。エリザベス女王の帝王学は、クローフォードより受けた学びと、社会に出て自ら学んだ実践的な学びで完成した。
家庭教師に就く前に、クローフォードは、エリザベス女王と1カ月ほど共に過ごしている。当時を振り返り、「エリザベスには、ほかの子どもと違う特別な個性を感じていた」と語ったクローフォード。「特別な個性」が何かについては明記されていないが、下記のエピソードからも、好奇心が高く、すでに、市井の人の考え方を知りたいという意識が芽生えていたことがうかがえる。
・毎日一緒に『タイムズ』に目を通した。
・リリベット6歳の誕生日にプレゼントされた本物そっくりに作られた小型の家と、家具、食器などで、幼いころから、使用人たちが掃除したり、家具を磨いたり、銀器を新聞紙にくるんだりする様子を見よう見まねで実践し、この家で「家事」を学んでいた。時に馬丁について乗馬の練習に勤しんだ。
『王女物語 エリザベスとマーガレット』より(※リリベットはエリザベス女王の幼少時の愛称)
クローフォードは、帝王学の授業について書物や物語から社会を眺めるのではなく、同じ年齢の少女と共に過ごす時間を水泳教室やガールスカウトなどから取り入れるように努めた。第2次世界大戦中は、16歳になったエリザベス女王自身が志願して下士官となり、軍用トラックを整備、運転した。市井の人々を知り、自ら下士官となって軍務に携わることで戦況を知り、兵士の置かれた現実を感じたのだ。軍務を果たしながら、兵士、人民の痛みを理解していたことは次のような行動にも表れている。