正解ない探究学習「教員も学ぶ側から始めよ」の訳 まずは自分事として経験、体感することが大事

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LCL第3期のメンバー
(写真:藤原氏提供)

米ハイ・テック・ハイの教育プログラムを日本に導入

藤原氏は、18年、世界屈指のプロジェクト型学習(=特定の科目を勉強するのではなく、プロジェクトや目標達成のために取り組む学習方法)を実践する学校として世界中の教育関係者が視察に訪れる米カリフォルニア州にある公立校「High Tech High(ハイ・テック・ハイ)」を視察した。

ハイ・テック・ハイはサンディエゴの街の小・中・高校、公立チャータースクールで、ヒスパニックといわれるスペイン語を母国語とする家庭の子どもたちが約半数、給食費の補助を受けている低所得層の生徒が約4割程度を占めるが、大学進学率では同市公立高校の平均の約2倍の大学進学率を誇る。その決め手は質のよいプロジェクトである。

ハイ・テック・ハイ小学校の低学年が「ゲームの街」というテーマでプランを作成し、発表会を行っている様子
(写真:藤原氏提供)

小学生であれば、段ボールなどを使って、みんなが楽しめるゲームセンターを作ったり、街の防災プランを作成する。高校生くらいになると、サンディエゴのアースデーイベントに合わせてプラスチックゴミ削減の提案を行ったり、地域で販売されている食料や食物生産の仕組みを学びながら、地元の小学校にプランターを作ったりするという。

「ハイ・テック・ハイは、同校に通う生徒の成長の様子や成長を支える教育プロセスを描いた『Most Likely to Succeed』という映画の上映会が広まっていることもあり、非常に優れたプロジェクト型学習の実践校というイメージがあるかと思います。しかし、私が着目したのは、彼らのプロジェクトの『手法』ではなく、むしろ、彼らの『哲学』でした。彼らは『どのように』プロジェクトをするのかよりも、『なぜ』プロジェクトでなければならないのか、ということをつねに考えています。そして、その答えを『公正』というコンセプトに見いだしました。

彼らのプロジェクト型学習におけるすべての取り組みには『公正性』が取り入れられています。『公正』とは『誰もが、人種や性別、性的な意識や、身体的、もしくは認知的能力にかかわらず、同じように価値ある人間だと感じることができること』。これを実現させるための『学び』であり、プロジェクト型学習の実践なのです。成績を伸ばすためのプロジェクト型学習ではなく、学校内外のすべての人が幸せになる社会を構築するためのプロジェクト型学習なのです。子どもたちは学びの意味を感じながら主体的にプロジェクトに取り組んでいくことで、自己肯定感を高め、結果的に学業成績も伸びていくのです」

ハイ・テック・ハイのあり方は、これからの日本の教育にも応用できると藤原氏は直感したという。帰国後、経済産業省の「未来の教室」の採択を受け、日本にハイ・テック・ハイの教員を招き、国内の教員・教育関係者向けの研修を企画・開催した。ハイ・テック・ハイの取り組みを藤原氏の視点から1冊の書籍にまとめた『「探究」する学びをつくる』は、20年12月の発売以来、今でも多くの教育関係者に読まれている。

総合的な学習・探究の時間でプロジェクト型学習を取り入れる

「日本の小・中学校の総合学習は、教科に縛られずさまざまな課題に取り組むことができます。学習指導要領のようなナショナルカリキュラムの中でこうした自由な時間が設定されていることについては国際的にも評価を受けています」

例えば、小田原市の小学校では、19年後期に総合学習の時間を活用して「コンビニエンスストアから世界を変え、発信しよう」というプロジェクトに4年生が取り組んだ。教員を中心に、空間デザイナーをはじめとするさまざまな職種の大人がプロジェクトに関わり、ものづくりや空間デザイン、世界を知るワークショップを開催した後、子どもたちはイタリア、インドなど世界の小学生の生活について調べ、グループに分かれてその国の小学生の家族のニーズに合うミニチュアのコンビニエンスストアを制作。学習発表会で発信したという。

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