慶応大「AIとプログラミング」は学生が教える訳 文系も上級者も無料で学べる組織「AIC」とは?
そのほか、ある会員企業のアイデアソンで、「すぐに商品化できるレベルなので特許を取ったほうがいい」と言われるほどの優れたアイデアを提案した学生もいるそうだ。「そろそろAIとは縁のなかった学部や学科から、AIをテーマに卒論を書く学生も出てくるのでは」と、矢向氏は期待している。
遠藤氏によれば、組織運営を担う学生たちのレベルも年々上がっているという。「AIの知識や技術力が上がるだけでなく、何より人に教える力が身に付いています。AICの活動で養った『相手に伝える力』は、将来的に自分がやってきたことや今後やりたいことを説明する場面などで役立つはず」と話す。
遠藤氏自身も、AICを立ち上げる際、ゼロからつてをたどりながら運営を引き受けてくれる学生を集めていく中で同志と出会えたことが、財産になっているという。「就職など自分と異なる道を進んだ人とも、今も連絡を取り合い最新の技術動向などの情報交換をしています。ここで培った信頼関係は今後も役立つだろうと思います」と語る。
矢向氏も、この点は大きな成果だと感じている。
「日本の大学は海外の大学に比べ、ほかの学部や学科の学生とコミュニケーションを取る機会はほとんどありません。ふとした議論からアイデアが生まれることがあるため、いろんな分野の人が自然と議論できる場をつくるのはとても大事。それができたことがAICのすばらしい点であり、今後も大学は運営側の学生をサポートするとともにチームとしての成長を期待しています」
こうした運営側の優秀な学生や意欲的に学ぶ学生と接点を持てることは参加企業にとって大きなメリットに違いないが、「企業にもっと満足してもらうことが課題」と、矢向氏は話す。現在、企業が意識の高い学生と多く出会えるよう、コラボレーションイベントの選択肢を増やしているところだ。また、参加者は増えているものの、単位にならないこともあり途中で学びをやめてしまう学生がいる点も課題と捉えており、対策を講じていくという。
このほか、講習会の「AI医療入門」の充実にも力を入れ始めている。医学部の教員の要望を受け、IT企業出身の石川繁樹氏が、今年度からAICコーディネータ室長に就任するとともに「AI医療入門」のカリキュラムを企画することになった。

大手IT企業を経て、2021年度より慶応義塾大学AI・高度プログラミングコンソーシアム コーディネータ室長。同大学特任教授。博士(工学)
「今年度からはAIの適用が今後重要となる医学部の学生の参加を意図した内容にしています。春学期は、グローバル大手IT企業4社に医療分野の世界のAI活用事例を紹介してもらいましたが、秋学期は私と学生が、医療現場で適用されるAI技術の詳説や、法的・倫理的課題も含めて教えていく予定。薬学部や看護医療学部も聴講できるような内容にしていきます」(石川氏)
来年度からはこのプログラム内容を医学部の授業として活用、実施することも検討しているという。
「今はこのように教育の裾野を広げていくところに力点を置いていますが、いずれは研究レベルまで枠組みを広げていければと思っています」と、矢向氏は展望を語る。同大学ならではの半学半教によるAI・プログラミング教育が今後どのような発展を見せるのか、楽しみだ。
(文:編集チーム 佐藤ちひろ、写真はすべて慶応義塾大学提供)
制作:東洋経済education × ICT編集チーム
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