慶応大「AIとプログラミング」は学生が教える訳 文系も上級者も無料で学べる組織「AIC」とは?

慶応義塾大学AI・高度プログラミングコンソーシアム 代表。同大学理工学部システムデザイン工学科 准教授。博士(工学)
「近年、学生たちから『AIを学びたくても学ぶ場がない』という声が上がっていました。とくに本学は7割が文系のため、AIやプログラミングを学ぶ授業がない学生がほとんどです。そこで、文理問わず学べる場の創出を検討し始めました。しかし、AIを必要としない学生もいるため、各学部に授業を新設するのではなく、大学の中に専門学校のような組織をつくり、勉強したい学生が自由に参加できるほうが現実的ではと考えました」
そこでモデルにしたのが、「適塾」だ。同大学の創立者である福沢諭吉が入門し、後に塾頭となった私塾である。学びたい者が集い、スキルが上がった者は教える立場になるという同大伝統の「半学半教」の精神の起源は、この適塾にあるといわれる。
「当時、ちょうどAIの半学半教をやっていた学生がいたのです」と、矢向氏。その学生とは、現在AIC運営委員・技術統括責任者を務める、同大大学院理工学研究科開放環境科学専攻 後期博士課程2年の遠藤克浩氏だ。

慶応義塾大学AI・高度プログラミングコンソーシアム 運営委員・技術統括責任者。同大学大学院理工学研究科開放環境科学専攻 後期博士課程2年。IPA 2017年度未踏アドバンスト事業採択者、同18年度未踏ターゲット事業採択者。日本学術振興会 特別研究員DC2
遠藤氏は、学部4年生のときに、自主的にAIに興味のある仲間と共に勉強会を行っていた。身近な友達と始めた活動だが、やがて30人規模まで拡大。「彼の活動は大変評判がよく、これを広げればうまくいくと思いスカウトしました」と矢向氏は振り返る。
こうした経緯で、現塾長の伊藤公平氏と矢向氏、遠藤氏を中心にAICが発足。 日吉キャンパスと矢上キャンパスにプログラミングルームを設け、それぞれに高性能な計算サーバーと巨大な記憶装置も準備してスタートさせたが、こうした本格的な設備や運営の資金は国や大学からではなく、企業から集めている。
「先端的なAIの勉強をやるとなると、高価なコンピューターや設備が必要です。しかし、AICは研究ではなく教育なので成果を測りづらい。報告書の必要な助成金ではなく企業からの拠出金による運営を目指し、AICに賛同いただいた企業から1社当たり参加費として年間500万円をいただく形で活動しています」(矢向氏)
現在、会員企業はGoogleや大塚製薬、Sozo Venturesなど10社。提供資金から、組織運営を担当する学生のアルバイト代も賄っている。担当業務によって異なるが、最大時給は講師の2400円。現在、講師は理工学部の学生を中心に15人ほどおり、最近では医学部や文系の学生も参画するようになったという。「講師ができるほどの優秀な学生は外部で高給アルバイトが見つかるので、このくらい設定しないと確保できません」と、矢向氏は言う。

高度プログラミングで成果向上、運営人材も年々成長
実際、このように設備や教育の質に投資してきた効果は表れ始めている。例えば、高度なプログラミング技術の習得に力を入れている講習会「競技プログラミング勉強会」で成果が出てきた。勉強会では国際大学対抗学生プログラミングコンテスト「ICPC」の世界大会出場を目指しているが、この中の学生チームが、ICPCで19年度に国内33位だったところ、20年度には国内5位まで順位を上げたという。