「紙とデジタル」学びの違いは、経験の差の可能性 SNSのやりすぎは、学びにどんな影響があるか

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24年に本格導入を目指しているデジタル教科書の議論は、その象徴だ。もちろん、理解度や学力への影響、有効な活用方法を検討する必要はあるが、紙かデジタルかの二者択一ではなく双方のメリットを生かし、デメリットを補う方法があるのではないだろうか。バトラー氏は「経験を積むことで紙とデジタルの差はなくなっていく可能性はある」と話す。

「大人は、ある程度の文字数を超えると紙のほうがいいという人が多いと思いますが、若い人の間ではデジタルのほうが楽という人が増えています。この世代差は、紙かデジタルかという物理的な違いではなく、“紙の読み”と“デジタルの読み”の経験によるところが大きいのではないかと考えています。ただ“デジタルの読み”は、長い文章や論理的思考が必要になる文章を読みこなすには向いていない可能性も指摘されています。今後、若い世代の間でデジタル教科書による学びが進んで経験が積まれていくことで、その差はなくなっていくかもしれません」

一方、ハイパーリンクなど、次々とさまざまな情報に容易にアクセスできるデジタルは情報過多に陥りやすいという。経験を積む中で、こうした課題を洗い出し、上手な使い方を同時に見いだしていくことが求められそうだ。

SNSに特化した言語生活が学びに与える悪影響

バトラー氏は、長時間にわたるインターネットの利用、とくにスマホを使ってのSNSが学びに与える影響についても気に留めている。

「SNSで用いられる言葉は、それ自体クリエーティブで楽しい面がありますが、学校教育の場で使われている学習言語とはタイプが違います。短いのが特徴で、単語、スタンプ、絵文字と、せいぜいフレーズくらいで成り立っていることがほとんどです。SNSに特化した言語生活を送っていると、例えば文と文をつなぐ接続詞のような語彙の習得が遅れ、文章をきちんと理解する能力や論理的思考を育む機会が損なわれる可能性があります」

一方、子どもたちのほうにも「SNSの利用を減らしたい」と思っても、なかなかやめられない事情があるようだ。バトラー氏が、19年に都内の中学校1・2年生を対象に行った調査では、SNSをやめてしまうと人間関係が損なわれたり、いじめに遭ったりするのではないかという懸念からやめられないと悩んでいる子が少なくなかったという。

逆に、こうした人と人がつながるためのツールであるSNSだからこそのメリットもある。他者と一緒になって何かの問題を解決していくときには、大きな力を発揮するのだ。

「コロナ禍で、ペンシルべニア大学もキャンパスを閉鎖し、授業はすべてオンラインで行っていました。グループワークの課題で、学生たちは米国、中国、エジプトなど離れた場所にいるのに、SNSを通じてディスカッションをどんどん進めていました。課題に出した論文の読みについても、『ここはこういう理解で合っているか』『ここをどう解釈すればいいのかわからない』とある学生が投稿すると、ほかの学生が非常によい示唆、考察をどんどん返していって、みんなで協力して読むということをやっているのです。これはデジタル世代の1つの新しい学びの形ですね。教える側としても、学生が何につまずいているのか、何を誤解しているのかが具体的に見えてくるので、非常に助かっています」

そんなバトラー氏が考える、デジタル世代に必要とされる力の1つは、変化に柔軟に対応できる新しい「コミュニケーション能力」だ。このコミュニケーション能力は、言語だけにとどまらず、音声や映像なども含んだマルチモダルな能力である。また、従来考えられていたような個人に内在する能力ではなく、他人と協議をしながら、それぞれが得意とする分野の知恵や経験を集結することを可能とする能力だという。

コミュニケーションの形が変化する中で求められる3つの能力

ここでキーポイントになるのが、言語を用いるコミュニケーション自体のあり方だ。

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