負の連鎖で深刻「教員採用試験倍率低下」の抜本策 #教師のバトンで明るみ、ブラックな職場環境
それぞれの教育委員会では、受験者を増やすために受験年齢制限の緩和や、優れた知識経験を持つ社会人を教員に迎えるための特別免許状の活用などの対策を打ち出している。
文科省がまとめた20年度公立学校教員採用選考試験の実施方法によると、20年度から秋田県、埼玉県、神戸市など9県市が新たに受験年齢制限を緩和し、制限なしは41県市となった。また介護離職した元教員を対象にした再採用試験の実施など、教員全体の年齢構成の平準化を図るためにも、中高年を含めた幅広い年齢層から受験者を募る。
体育やピアノの実技試験の廃止や、大学推薦者への1次試験免除など、受験者の負担を減らす取り組みも増えている。福岡市では、22年から筆記試験と面接を課さずに教育実習の評価と大学の推薦だけで採否を決める特別選考の導入を決めた。
小学校と中学校との併願を認めたり、工業従事者、看護師などの実務経験者、理科に関する専門知識を持つ博士号取得者らに特別免許状を授与して採用するなど、各自治体であの手、この手の取り組みが展開されている。
文科省も、教員免許取得に必要な単位数の軽減など、35人学級が導入される小学校の免許状を取得しやすくする措置のほか、社会人が民間企業に在籍しながら、学校現場の勤務を経験できる兼務制度の創設など、多様な人材活用のための方策を探る。また現実に問題となり始めた教員不足の実態調査や、教職志望者が減っている学生の志望動向調査などにも乗り出す。
今年3月、文科省は、「令和の日本型学校教育」を担う教員の養成・採用・研修などの制度の抜本的改革、教員免許更新制度の見直しについて、中央教育審議会(以下、中教審)に諮問した。今後は中教審の特別部会で議論を進める。
新任教員が自信を持って教壇に立つための支援を
とくに小学校で目立つ教員志望者減少の背景について、明海大学客員教授の釼持勉氏は「新任教員が、学校現場をよく理解できないまま教壇に立たされている現状にあるのではないか」と指摘する。
教員養成を行う大学は、採用実績を伸ばすことに熱心でも、現場に出てから何をすべきかまで含めて教えるところは限られる。教育実習は、指導教員が多忙で十分に機能せず、コロナ下では実習先が見つからないケースも増えた。
35人学級導入による急な学級増に対応するため、新学期直前に採用が決まり、準備の余裕もなく学校現場に出なければならないこともある。その結果、新任教員は「どう頑張ったらいいのか」と戸惑い、苦しい状況に追い込まれる。それが卒業生の声として現役学生に伝わり、教職のイメージを悪化させる負の連鎖を起こす。
釼持氏は「長時間労働などブラックな労働環境の改善の必要性ばかりが強調されているが、まず必要とされるのは、新任教員が自信を持って教壇に立てるようにする養成や支援の仕組みではないか」と訴える。
(写真:iStock)
制作:東洋経済education × ICT編集チーム
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