経産省が「教育現場のDX」に超本気の納得理由 より社会や企業に近い省庁ならではの狙い
標準授業時数と教員免許も教育改革のターゲット
経産省に教育産業室が立ち上がった17年当初、同省は教育改革に向けて3つの重要な論点があると考えていた。「1人1台端末を日本の学校の標準にする」「個別最適化と相いれない標準授業時数の制度を改変する」「教員の多様性を高めるため教員免許制度を抜本的に見直す」だ。1人1台端末が実現した今、残り2つの課題の早期解決に向け動き出している。
「個別最適化とは、一人ひとりの生徒が学習ログと個別学習計画を手に、お互い励まし合いながらパーソナルトレーニングに取り組む学校づくりです。これはスポーツと似ています。しかし、科目別、学年別に決まっている標準授業時数は、教師が授業を一定時間行えば、理解していようがいまいが教育を修了したと見なします。学習者を中心に考えたら、それはフィクションでしかなくて、その設計自体を変える必要はないのか、ということです。
これは、GIGAスクールの環境を生かして、ギフテッドと呼ばれる異才の子や、発達障害を持つ子、教室の雰囲気や授業デザインになじめない子も含め、すべての子が自分に適した環境を選んで安心して学べる学校をどうデザインしようという話。さらに言えば、そろそろオルタナティブスクールも学校と認めないのかとか、『学校らしくない、すてきな学校』がどんどん生まれてくる仕掛け作りといった次のステージにもつながっています。
また教員免許については、21年度から小学校で35人学級が始まり、いずれ中学校にも広げるとしていることから、教員不足が懸念されます。現行制度では、例えば博士号の取得者で専門分野を極める経験をした人でも、発達心理学や認知科学の基礎を理解して教育実習さえ終えたら教壇に立てるような仕組みではありません。大学の教職課程を経て23歳で教職に就くという画一的なキャリアパスだけではなく、多様なバックグラウンドを持った人たちが常勤、非常勤を問わず学校現場に入ってきて、大学生のティーチングアシスタントもたくさんいる多様性を学校の中で実現できないか。ドラスティックな改革を文科省に期待しています」
GIGAスクール構想という国家プロジェクトは「省庁連携」がポイントだ。「視点や価値観の異なる人の交わりがイノベーションの源泉と言いますが、政策も1つの省庁だけで作ると必ず限界が出ます。『教師の職人技、集団の力』を大事にしてきた文科省と、『教師とデジタルの融合、個々の学習者に適した学習環境』に力点を置く経産省が交わることは、教育改革の最適解を探し出すうえでとても重要なこと」と浅野氏は見解を示す。いったいどんなイノベーションが生まれるのか。今後の展開に注目したい。
(撮影:今井康一)
制作:東洋経済education × ICT編集チーム
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