経産省が「教育現場のDX」に超本気の納得理由 より社会や企業に近い省庁ならではの狙い

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好事例が続出する「未来の教室」実証事業

すでに成果を上げている実証事業も数多くある。学びのSTEAM化では、明蓬館高等学校と鹿島朝日高等学校という広域通信制高等学校に通う生徒約20人を対象に行った「エシカルハッカー発掘・育成プログラム」が好事例に挙げられる。

ソフトウェアのデバッグ・テストサービスを展開するデジタルハーツの社会人向けサイバーセキュリティー研修を、高校生のキャリア教育向けにカスタマイズし、オンラインで全3回の授業を展開するというものだ。カスタマイズを担当したのは、年間140以上の高校などに進路選択支援を行っているハッシャダイソーシャルだ。

参加したのは、ゲームが好きな生徒たち。能力の偏りが大きく、平均点主義・減点主義では埋もれがちな才能を発掘し、自分の好きなこと・得意なことで突き抜けて、社会で活躍するロールモデルを作ることがこの実証事業の意図するところだ。その背景には、圧倒的に不足する情報セキュリティー人材という社会課題がある。

「参加した高校生は、通算ゲーム時間がすでに1万5000時間を超えるようなゲームにものすごく強い生徒。それには訳があって、彼らの中には発達障害を持つ生徒も多かったのですが、非常に高い集中力があり、かつゲームの穴、つまりここを突けば勝てるというところが見えているわけです。授業で課題に取り組んでもらうと、『ちょっと鍛えたら即戦力』とプロが舌を巻くほどの生徒も全体の3分の1くらいいたわけです。彼らには、1つのことを突き詰めていく中で培った能力を磨き、ほかの知識とつなぎ合わせてさらに可能性を広げてほしいです。サイバーセキュリティー以外のデジタル関係の仕事に転用できるかもしれず、好きを仕事にして自立できる可能性に気づいてもらえたらと考えてます」

自分の好きなこと・得意なことで突き抜けて、社会で活躍するロールモデルを作る実証事業の背景には、情報セキュリティー人材の不足という社会課題がある

学びの個別最適化については、全日制普通科の長野県坂城高等学校のケースが注目を集めている。同校は「未来の教室実証事業」に採択され、19年2学期、1年生を対象に苦手な単元をさかのぼって学習できるAI教材を数学、英語、国語の3教科に導入した。

同校には、学力面で幅広い生徒が入学してくる傾向があることに加え、中学時代に不登校や別室登校、発達障害といった課題を抱えていた生徒も通っている。そこで、このAI教材「すらら」を使うことで、自ら主体的に個々のペースで小中学生時代に積み残してしまった単元に戻って学び直す「個別最適化学習」が可能になった。

また、教科学習の効率化によって生み出された時間を活用して「地元企業の未来を作るアイデアを提案するフィールドスタディ」というSTEAM教育の実証も進めることができた。協力企業はマイナビとトモノカイだ。同校は卒業後の進路として就職を希望する生徒が多いため、地元企業と深く関わり、主体的に考え課題に取り組める社会人へと成長するプロセスが重要になる。そんな実情があるからこそ俎上に載せたプロジェクト学習だ。

実際にこのフィールドスタディでは、生徒たちが企業を訪問し、インタビューを行う。質問項目は、メンター役の大学生の力を借りて綿密な事前調査を行い、グループで議論を重ねて練り上げるという。

「質問する側の『問いの質』がよければ、答える側のフィードバックの中身もまったく違ってくることを生徒たちは身をもって学んだと思います。コミュニケーションの妙というか、人と話す前に端末を使って事前に自分で下調べすることの重要性を高校生が学んだよい事例です。『自分もやればできる』という自己効力感を手にした生徒たちの変化を目の当たりにして、先生たちのICT活用への姿勢も大きく変わりました。坂城高校は、地方のスタンダードな公立校で、こうした面白い物語が全国に広まったらいいなと思います」

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