今さら聞けない「ICT教育と著作権法」の関係 今春スタート「授業目的公衆送信補償金」とは

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2020年4月28日に「改正著作権法第35条」が施行され、21年4月からは「授業目的公衆送信補償金制度」が本格的にスタートした。これにより、他人の著作物を用いた教材や資料をオンライン授業などで利用する場合、無許諾で可能となった代わりに著作権者に対して補償金の支払いが必要になった。GIGAスクール構想の推進やオンライン授業に関わる大きな変化だが、複雑な話であるため把握しきれていない教育関係者も多い。そこで、「ICT教育×著作権法」をテーマに前後編で記事をお届けする。前編は、今さら聞けない著作権の基本をはじめ、法改正と補償金制度のポイントについてまとめた。

著作権の基本と改正前のルールをおさらい

「教育というものは著作物で成り立っている部分が、非常に大きい」と、一般社団法人 授業目的公衆送信補償金等管理協会(以下、SARTRAS/サートラス)理事・事務局長の野方英樹氏は話す。試しに教科書を開いてみよう。小説の一部や楽譜・図表・挿絵・写真などが載っているはずだ。専門書であれば、論文が掲載されているだろう。これらはほとんどが著作物だ。

当たり前だが、著作物には作った人(著作権者)がいる。著作権者は第三者によって自分の著作物が勝手に使われないよう制限する権利(著作権)を持っている。「他人の自転車を、所有者の断りなく第三者が勝手に乗り回してはいけないのと同じ理屈です」と、野方氏は説明する。よって、著作物を利用したいときは、著作権者に許諾を得なければいけない。それが著作権法の大原則だ。

野方英樹(のがた・ひでき)
一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会(SARTRAS)理事・事務局長。一般社団法人日本音楽著作権協会にて音楽著作権管理に従事。2018年10月退職後、公益社団法人日本複製権センター事務局長代理を経て19年1月SARTRAS事務局長、 20年6月より現職。著作権法学会・国際著作権法学会会員
(写真提供:野方英樹氏)

また、著作物には「著作隣接権」というものもある。著作物の普及に重要な役割を果たす実演家(俳優・舞踏家・歌手・演奏家など)、レコード製作者、放送事業者、有線放送事業者に認められた権利だ。例えば、音楽CDの音源をほかの媒体に複製する場合は、著作隣接権者の許諾も必要になる。現在は著作権も著作隣接権も、著作者の死後70年間継続する。

ただし、例外がある。例えば「私的複製」だ。個人が家庭内などで楽しむ場合に限った複製は、許諾不要とされている。これと同様に、「学校その他の教育機関」における授業目的の複製等も例外扱い。これらを法律で定めているのが「著作権法第35条」だ。「黒板に教科書を書き写す行為も複製です。これを当たり前のように行うことができるのも、第35条があるからといえます」と、野方氏は説明する。

この著作権法第35条が、20年4月に改正された。いったい何が変わったのか。そのポイントは「授業目的公衆送信」、いわゆる「オンライン授業」に関する許諾にある。改正前は、以下の4つの条件の下、無許諾・無償で、対面授業で使う資料としての紙での複製や同時中継の「遠隔合同授業等」のための公衆送信を行うことができた。

① 「非営利目的の教育機関」であること
② 「教育を担任する者(教員等)」 および「授業を受ける者(児童・生徒・学生等)」による利用であること
③ 「授業の過程における利用」に「必要と認められる限度」であること
④ 著作権者の利益を不当に害しないこと
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