今さら聞けない「ICT教育と著作権法」の関係 今春スタート「授業目的公衆送信補償金」とは

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「意外な著作権侵害」のケースも!

教員も把握しておきたいことがある。それは「利用報告」と、改正著作権法第35条から逸脱する利用についてだ。

まず、著作権者に補償金を適切に分配するためには、授業のためにどのような著作物が利用され、公衆送信されたのかをSARTRASが把握しなければならない。判断材料は学校設置者による「利用報告」になるが、その根拠となる記録を残すのは、実際に授業を行う教員たちだ。野方氏は、こう説明する。

「20年度はオンライン授業の実施に伴い1万7000校の届け出があり、今年度は21年4月からSARTRASサイトを通じて申請登録受け付けが始まっています。国による学校設置者への財政支援もありますし、補償金は集まっていくと思いますが、大事なのはその分配。6月以降、全国の学校設置者を対象にサンプル方式により利用報告をお願いする予定です。

教員の皆様がお忙しいことは承知していますが、著作権者に対して精度の高い補償金の支払いをするためにご協力いただきたい。ご負担にならないよう利用報告の項目数も最小限にしているので、日頃から著作物を利用した際にはご自身で作った資料に情報をできるだけ明記されておくと、ご対応いただきやすいと思います」

著作物の利用が、改正著作権法第35条の規定内かどうかについては、教育関係者、有識者、権利者で構成する「著作物の教育利用に関する関係者フォーラム」が「改正著作権法第35条運用指針(令和3〈2021〉年度版)」を作成し、事例を公表している。

一方、改正著作権法第35条の条件の対象とならず、教育現場にとって許諾手続きが負担になるようなケースもある。例えば、職員会議や教員研修、保護者会などで使用する資料に、著作物を用いて複製や公衆送信する場合。大学などでLMS(学習管理システム)にアップロードされた教材も、履修が終わってからも継続利用する場合は許諾が必要だ。教員が「え? これも要許諾?」と驚いてしまいそうなのは、ある教員が著作物を利用して作った資料をほかの教員に複製するなどして共有する場合だろうか。いずれも条文が定める「授業の過程における利用」ではないなどの理由から、無許諾だと著作権侵害になるという。

しかし、これらは教育に直結する活動であり、その都度許諾を取るのは多忙な現場の実態にそぐわない。そこで、こうした場合でも著作物の複製や公衆送信などが楽に行えるよう、21年度中にこれまでの各著作権者の窓口に加え、SARTRASを新たな窓口とした包括ライセンス制度も準備中だという。ライセンス料や利用方法などについては、今後SARTRASから関係団体への意見聴取が行われた後、詳細がアナウンスされる見通しだ。野方氏は、こう強調する。

「授業目的公衆送信補償金制度も、新しいライセンス制度も、ICTを活用した教育を推進するためのもの。著作物の利用をむやみに恐れないでいただきたい。ただ、教育での利用に値する質の高い著作物と、それを作り出した著作権者らに思いをはせ、著作権制度をご理解いただき、著作物の利用に際しては十分なご配慮をお願いしたいと思います」

今回は、法改正や補償金制度の概要把握に重点を置いた。詳細は、文化庁著作権課とSARTRASが主催する「授業目的公衆送信補償金制度のオンライン説明会」のアーカイブで内容の視聴と資料の入手が可能だ。後編では、教員が授業で著作物を利用するに当たり、押さえておきたい注意点などを紹介する。

(注記のない写真はiStock)

制作:東洋経済education × ICT編集チーム

東洋経済education × ICT

小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。

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