「デジタル教科書」の実証研究で先行く過疎の町 ICT教育の推進で、将来町を支える人材育成へ
ただ、誤った使い方をしたらどうしようなど、先回りしてルールを決めてしまうと効果が半減してしまうと考え、子どもたちの自由な発想で活用してもらうことを大事にしたという。その結果「20分使ったら2分休ませる」といった時間・場所・取り扱い・個人情報の使用など最低限の町内ルールを作成し、子どもにもわかりやすくまとめて文書で示した。
教員に対しては、授業を公開して自由に参観できる機会を設けるほか、情報教育調査委員会の研修を通じて、指導案を各学校で共有している。実際の授業では、スタディメイトと呼ばれる学習支援員や、町全体で3名配置しているICT支援員が授業のサポートやトラブルに対応する体制をとっている。
何より「子どもたちが、学びを広げられるというところに、デジタル教科書の大きな可能性を感じる」と上田氏は言う。今後は「デジタル教科書を使うことが目的になってしまっては、本末転倒。大切なことは、デジタル教科書を活用して何を実現するかを共通理解することにある。今後、どの場面でどのように活用することが有効か、検証していきたい」と話す。デジタル教科書の使用制限が撤廃されるからといって完全移行には慎重であり、時間をかけて検証を重ねる考えだ。得られる効果が「見える化」できてこそ、現場に浸透していくということだろう。
上田氏は、過疎が進む町で、教育のICT化を推進する利点について次のように話す。
「ICTは、これからの時代を生き抜くために必要な資質や能力を早い段階から身に付けるのに役立ちます。過疎の町にいながら、世界中とつながれるのだと小中学校のうちから体感できるのも大きい。朝日町では、22年度から保育園、小学校、中学校までを切れ目なく指導する『保小中一貫教育』を導入する予定です。その接続をスムーズにするのにもICTが生きると考えています。将来、町を支える人材を育成したい。その中で、距離を一気に縮めることができるICT教育には可能性を感じています。
もう1つ、緊急時の活用にもメリットがあります。コロナや自然災害で臨時休校になった場合、オンライン授業に切り替えることができれば、子どもたちの学びを止めることなく、学習を進めることができます」
今年の2月18日、富山県では大雪となり、町内の小中学校は臨時休校になった。だが事前に大雪が予想されていたため、児童・生徒たちにタブレットを持ち帰らせ、オンライン授業を実施することができた。「子どもたちの学びを止めない」――コロナ禍で町が推進してきたことが、実践につながった。
デジタル教科書については、今年度も町内の2小学校では昨年度と同様、5・6年生で運用する。さらには活用範囲を中学校に広げ、全5教科での導入を行う。
(写真はすべて富山県朝日町提供)
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制作:東洋経済education × ICT編集チーム
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