「デジタル教科書」の実証研究で先行く過疎の町 ICT教育の推進で、将来町を支える人材育成へ

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「意欲的に学習に取り組めるようになった」の声

朝日町では20年9月末、町内の小中学校の全児童・生徒計611人に、1人1台のタブレット端末の配備を完了した。以降、さみさと、あさひ野の2つの小学校においても、「1人1台端末」によるデジタル教科書の活用が本格化している。

さみさと、あさひ野の2つの小学校は、文科省のデジタル教科書の実証研究校にも指定されている

現在、デジタル教科書の使用については、教科ごとに「授業時間数の2分の1未満」に抑えなくてはならないという制限がある(21年度には撤廃される見通し)。朝日町でも、この範囲内で紙の教科書と併用しながら、国語、算数で3~5単元、英語ではすべての単元でデジタル教科書を使っているという。デジタル教科書を活用するメリットについて、上田氏は次のように語る。

「紙の教科書では、一度書き込むと跡が残ってしまう。デジタル教科書では、何度も書き直せるため、考えを練り上げることに効果がある。国語では大事なところに線を引いたり、自分の考えをまとめる場面で、算数ではグラフを描いたり図形を動かせる点に、デジタルのよさがある。試行錯誤することで、考えを広げていける効果も期待できます」

算数ではグラフを描いたり図形を動かせるところに、デジタルのよさがある

ほかにも資料のリンクや動画など、興味を持ったことを深く調べられる機能など、工夫が施されているデジタル教科書が多いという。では実際、デジタル教科書を授業で使用している児童や教員の声はどうなのか。

児童への事後アンケートでは「楽しい」「意欲的に取り組めるようになった」「(英語で)ネイティブスピーカーによる音声を繰り返し聞けるので、正しい発音を学ぶことができる」といった肯定的な感想が多かったという。「目が疲れた」「使い方がわからないことがあった」など一部ネガティブな声もあったものの、「困ったことはない」と回答した児童が8割を占めた。

一方、教員側が感じているメリットとしては、「意欲的に学習に取り組むきっかけになる」「多様な方法で情報を集めることができる」「協働して問題解決ができる」などが挙がっている。困ったこととしては、ネット回線の不具合といった機器トラブルに関する回答が目立ったほか、「児童から質問されたら答える自信がない」と、教員自身のICTスキルへの不安の声も出たという。

「特別支援学級における活用では、デジタル教科書が学習効果を高めることにつながると期待されている。紙の教科書では一点を集中して見ることが難しかったり、教室で教員の声の聞こえ方に『困り感』のある子もいる。そうしたお子さんにとっては、拡大や音声機能があるデジタル教科書は、安心して学べるツールになる。“なぞり書き”の機能によって、漢字が嫌いな子が意欲的に取り組んだという事例もあります」(上田氏)

過疎の町におけるICT教育の可能性

教員は、情報教育調査委員会の研修を通じて、指導案を各学校で共有している

だが、「デジタル教科書をスムーズに導入するための準備は大変だった」と上田氏は振り返る。

「1人1台端末」を導入する際は、先進的な取り組みをしている地域の事例を参考に、主に情報モラルやタブレットの使用方法において、町独自のルールを定めた。だがデジタル教科書は、公立の学校では先行事例が少なく、何をモデルに準備を進めていけばいいのかという不安が大きかったそうだ。

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