国内外から生徒が集まる「島の学校」の正体 統廃合寸前の危機から復活遂げた隠岐島前高校

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これからの島前と、魅力化の取り組み

――コロナ禍においても島前内の学校は休校措置を取らず、オンラインでの授業を実施されていましたね。

濱板:隠岐國学習センターのスタッフの方にお手伝いいただいて、レンタルのモバイル端末などオンラインでいつでもコミュニケーションが取れる環境を整えたことで、緊急事態宣言下の全国一斉休校のタイミングでも、島の学校は授業を続けることができました。今は対面授業を再開していますが、いつでもオンライン授業ができるという安心感はありますね。

豊田:高校も同様に、今は通常授業をしています。学習センターを含め、島の外部からゲストを呼んで対話するようなキャリア教育の授業などは、オンラインで実施しています。

島の外部からゲストを呼んで対話する授業なども実施

濱板:コロナにかかわらず、学習センターと学校の間で、お互いの持っているスキルや情報の交換は日常的にやっています。この前は、学習センターのICT教育ディレクターの方に来ていただいて、個別最適化の学習ソフトの設定や検証をしてもらいました。

豊田:海で隔てられた3町村それぞれに小学校・中学校があり、そして島前高校があるので、私たち学習センターは、そこをインターネットでつなぐ技術サポートやアドバイスもさせてもらったりもしていますね。

濱板:自由に出入りしてもらっていて、ある意味小学校のスタッフと思えるくらい(笑)。

――教育に携わる大人がまず率先して持つべき心構え、取り組むべきことについてお聞かせください。

吉元:地域のどこに強さがあるのか。つい悪いところばかりが見えてしまうけれども、魅力となる強みはどこにあるのか、それを生かせるように考えることが重要だと思います。子どもの教育も同じで、弱みをサポートしながら強みを引き出す気持ちを持つこと。そして、諦めない気持ちを持って、粘り強く努力をし続けることが大事だと考えています。

生徒数が増え活気を取り戻した島根県立隠岐島前高校

岩本:今振り返ってみると、主体的に物事を探究していく姿勢や、多様な人と学び合い協働していく姿勢など、普段子どもたちに身に付けてほしいと思っている力を、僕ら自身が意識せざるをえなかったなと感じています。「よそ者」であった僕が、「何で自分がこんな役回りになってるんだ」と思いながらも、何をしたらうまくいくのかを、教員や地域の人とチームで試行錯誤し続けるしかなかった。

濱板:私も当初は「何で自分がこんな役回りに」という気持ちがありましたが、それこそ岩本くんや豊田さんなどの島の外から来て頑張っている人たちと一緒にやっていくうちに、いろんな問題処理というか、トラブル処理みたいなことを不思議とやりたくなっていました(笑)。「できるかできないか」ではなくて、「どうしたらできるか」に知恵を絞ることを、このプロジェクトで培いましたね。これから生きていく子どもたちにも、そういった力をぜひ身に付けてほしいなと思います。

豊田:やっぱり子どもたちに身に付けてほしい力を自分が実践できているかどうかは、つねに意識したいですね。最近大事だと思うキーワードは、「アンラーン」すること。「学ぶ」の反対で、手放していくというか、自分のこだわりを捨てて手放していく感覚です。「自分が今まで身に付けてきた考え方は、本当に正しいのか」という観点は、僕なんか最近なかなかできなくなってきたなと感じていて。でもそんな意識こそ、「三方よし」や「多文化共生」につながっているんじゃないかなと思います。

――みなさんが、それぞれ次に目指されていることは何ですか。

岩本:今後は島前高校だけでなく、日本の高校教育だとか、地域における次世代の人づくりだとか、そういった大きなところにつながっていってほしいなと思っています。島前地域の取り組みも、今がゴールや完成形になっているわけではないと思うので。僕自身は今、地域・教育魅力化プラットフォームの代表理事として、日本の高校進学における新たな選択肢を増やすべく、都道府県の枠を超えて地域の学校に入学できる「地域みらい留学」などの取り組みを推進しています。

豊田:今まで学習センターは子どもが育つ学びというところで頑張ってきましたが、今後はそこから少しずつ、地域全体が育つ学びにシフトしていきたいと思っています。とはいえ、「子どもが育つ」から「地域が育つ」間には「大人が育つ」ことが必要不可欠。大人への伴走や支援に力を入れて取り組むことで、島で育った子どもが志を果たしに戻ってきやすくなるサイクルを作りたいですね。そのために今は、地域づくり、人づくり、つながりづくりをテーマにオンライン研修をしたり、離れていてもお互いに学び合えるようなプラットフォームのベースを作ったりしています。知識を持っている個人に学びを請うスタイルでなく、共学共創で一緒に学んでいく、教え合う場として機能していけばと考えています。

濱板:私は小学校の校長先生として(笑)、できることをやっていくだけです。

(写真はすべて「隠岐島前教育魅力化プロジェクト」提供)

制作:東洋経済education × ICT編集チーム

東洋経済education × ICT

小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。

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