国内外から生徒が集まる「島の学校」の正体 統廃合寸前の危機から復活遂げた隠岐島前高校

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岩本:もともと魅力化プロジェクトは、島前高校という名前のとおり3町村の高校として、高校がある海士町だけでなく西ノ島町、知夫村を含めた3町村で一緒にやっていきたいという思いがありました。濱板先生は西ノ島町ご出身で、知夫村にも詳しい方でしたので、地域と学校の両方のことがわかりコーディネートできる適任者ということで、ぜひお願いしますと。

――2009年に、吉元さん、岩本さん、濱板さんの3人で、現在の島前高校の理念や施策にもつながる、高校を地域づくりや人づくりの拠点と捉えた「隠岐島前高等学校魅力化構想」(以下、魅力化構想)を作られていますね。

濱板健一(はまいた・けんいち)
海士町立福井小学校校長
1965年島根県生まれ。87年より西ノ島町立西ノ島小学校教諭、2007年より海士町教育委員会 派遣社会教育主事として、島前高校魅力化プロジェクトに携わる。19年より現職

濱板:魅力化構想を作るうえでは、島前内の中学校に通う生徒と保護者、さらに島前高校の先生や地域の方々に、「島前高校の強みと弱み」「行かせたい理由と行かせたくない理由」などをそれぞれ質問事項にまとめ、アンケートを取りました。生徒・保護者・先生・地域の方々のいろんなニーズや課題感を基に、構想案を策定しました。

岩本:島前高校に行かない選択をした子どもたちや保護者の方々のアンケートを見ると、島では希望する進路実現がかなわないと考えている人が多くいました。そのため魅力化構想には、学力向上のためのカリキュラムや教職員の充実など、教育的基盤の強化を急務として盛り込みました。また当時から、島前地域に愛着や誇りを持って、この地域で自己実現を果たしていくような未来の担い手を育てたいと考えていました。そのため、魅力化構想の中には、地域を舞台にした学びや探究の提供も盛り込んでいます。

吉元:僕は最初、魅力化構想を策定するうえで、東京の進学校など他校の視察に行って、それらの学校のよいところなどをまねしようと思っていました。でも東京と島前では置かれている環境がまったく異なるということを岩本くんに言われて、確かにそうだなと。「地域の特性を生かした学校づくり」をすべきだというのは、後から気づきましたね。

――魅力化構想にある「学力向上とキャリア教育の充実」の実現に当たり、09年に一人ひとりの得意を生かした進路実現を支援する公立塾「隠岐國学習センター」が設立され、豊田さんが講師として島前にいらっしゃいます。

豊田:最初は僕、岩本くんだけがすごくて、島前に移住する人が増えているのかなと思っていたんですけど……行ってみると、吉元さんの当事者性の甚だしさとか行動の甚だしさ、濱板先生の地域と地域、島と島をつなぐ、つなぎ手としての存在感が圧倒的で。島の大人がただ者でないなと感じて、移住を決めました。

地域社会に学校を開き、つなぐために

――地域社会に高校を開くに当たって、さまざまなステークホルダーと利害関係を超えて協力し合うために、具体的に行ったことなどはありますか?

豊田庄吾(とよた・しょうご)
公立塾隠岐國学習センター長
1996年、広島大学総合科学部卒業。その後リクルートの関連会社にて人事、人材育成会社ウィル・シードにて大手企業や省庁の研修講師を務め、経済産業省の起業家教育促進事業では全国300校以上の公立学校にて起業家精神育成の出前授業を行う。2010年から現職

 豊田:島根県内には、もともと大学受験に特化した塾や予備校というものが少なく、公立高校がその役割を担っていました。ですから、学習センターを開くことは、教員や学校を信じていないというメッセージにも取られかねなかった。最初の5年くらいは、学習センターが学校と対立構図をなす存在ではないということを理解してもらえるように、とにかく高校の先生とミーティングをする機会をたくさんつくっていました。あとは、外から来た大人や島の人に、対話や実践を通して自分の興味や夢を明確にしていくための授業「夢ゼミ」を見学してもらっていました。子どもたちが将来について真剣に考えて、自分の夢を語る姿を見ることで、応援するようになってくれた人もいましたね。

濱板:高校の先生や地域の議員さんたちと一緒に、自分たちが目指す課題解決型の学習を実施している他校に視察に行ったことも大きかった。他校の生徒の話を聞いたり、自分たちの取り組みを話したりする中で、見聞きした話を持ち寄って懇親を深めて。協力者になってほしい先生の、懇親会の座席位置までこだわって決めたりしていました(笑)。実際、その先生に協力的になってもらうことで展開が変わったりして。そういうことの積み重ねだった気がします。

一人ひとりの得意を生かした進路実現を支援する公立塾「隠岐國学習センター」

吉元:魅力化のスタッフと学校の先生が一致団結できるように、島留学が始まった後も先生に対してアンケートを取ったりしたよね。現場で生徒と直接関わっているのは先生なので、その先生の気持ちを高めるために、不満をまず吐き出させないといけんと。

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