小中学校ICT化、低水準に現場の課題感が強まる

文科省が公立の小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校及び特別支援学校の設置者に対して行った「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた公立学校における学習指導等に関する状況について」では、多くの学校でICT活用が遅れていることが判明した。実際、全体の8割以上が「各学校や家庭・児童生徒の実態を踏まえた積極的なICTの活用」に対する課題感を持っており、さらに7割以上は「児童生徒による学習状況の違いに対応した学習の支援」への問題意識を持っていた。

それを裏付けるように、同時双方向型のオンライン指導は、小学校でわずか8%、中学校でも10%の実施、デジタル教材の活用も共に3割程度と進んでいない。高校では約5割でオンライン指導の実施とデジタル教材の使用が行われたことを考えても、小中学校のICT化は低水準だといえるだろう。家庭における学習の状況把握と支援の方法は電話やFAXでの対応が大半で、約7割が一斉電子メールによる連絡を活用しているものの、同時双方向型のオンラインシステムによる連絡となるとやはり1割程度に甘んじている状況だ。またコロナ禍においても臨時登校や家庭訪問といった対面措置が多く実施されていたこともわかる。

一方、中等教育学校いわゆる中高一貫校では、同時双方向型のオンライン指導が70%、デジタル教材の使用が75%となっている。家庭との連絡手段も一斉電子メールが90%、同時双方向型のオンラインシステムによる連絡の利用が80%と非常に高い数字だ。設置者数が少ないとはいえ、中高一貫校ではICT化に積極的に取り組んでいる姿勢がうかがえる。

今回生じた学習面での遅れについて、ほとんどの学校が夏休みなどの長期休業期間の短縮や学校行事の見直しでカバーする方針を示すとともに、「ICTを活用した学習のための環境整備や教師・児童生徒の情報活用能力の向上を図る」と意欲を見せている。

ICT化、進めるのに不可欠な「4つのカギ」の連動

コロナ禍の収束が読めない中、教育のICT化は急ピッチで取り組むべき課題だが、いったいどのように進めればよいのか。放送大学情報コース・情報学プログラム教授の中川一史氏は次のように語る。

「教育のICT化は、『環境』『制度』『活用』『スキル』の4つを連動させて進める必要があります。『環境』と『制度』については、1人に1台の端末整備を目指すGIGAスクール構想や、デジタル教科書の法制化・小学校プログラミング教育の必修化などで加速しているといえるでしょう。ですから、問題は残りの『活用』と『スキル』です」

 

「活用」について、これまで学校は校内で40台くらいのパソコンを共有し、効果的な学習を目指してきた。今後は1人1台の端末が支給されるため、日常的な活用方法が問われてくると中川氏は語る。

「1人1台端末を持つことは、まさに子どもたちがコンピューターを『占有』することであり、学校と家庭を結び付けて活用できるようになることを意味します。こうした端末は、鉛筆やノートと同様に子どもたちのマストアイテムとなるでしょう。そこでこれからは、教師が示す枠内に言葉を埋めるテンプレートのようなものの上での学習活動だけでなく、子どもたちが自分なりの構成で臨んだり、枠組みをつくって情報を配置したり、思考を深めたりすることができるようになるのです。教師は子どもたちが日常的に端末を活用できるよう、学習活動の幅を広げてあげることが重要です」

子どもと教師、求められるそれぞれの「スキル」

「スキル」について、中川氏は、子どもたち自身が上手に端末を活用するすべを身に付ける必要があると指摘する。

放送大学
情報コース・情報学プログラム
中川一史 教授
(写真は本人提供)

「子どもたちが端末を効果的に利用して、問題を発見・解決したり、自分の考えを形成したりしていくためには、彼ら自身の情報活用能力を向上させることが大切になってきます。これは全教科で領域横断的に考える必要があるでしょう。学習指導要領で定められている項目には、直接『情報活用能力』とは書かれていなくても、明らかにこれに該当するものが各教科に(小学校国語科の「情報の扱い方に関する事項」など)存在します。教師はこれらを洗い出し、検討していくことも忘れてはなりません」

中川氏は、教師自身が授業スキルを向上させる必要性にも言及する。

「端末を幅広く活用するためには、従来の板書やパソコン学習とは違う “頭の筋肉” を使う必要があります。例えば、一人ひとりが違う使い方をするケースや、同じタイミングでも端末を使う子と使わない子がいたりするケースを前提に授業を進めることになります。教師はこうした状況への『構え』を持つことが必要になってくるのです」

今後、教育のICT化でオンライン教育が浸透することは必至だが、遅れが目立つ小中学校ではどのような対応が必要だろうか。中川氏はこう指摘する。

「オンライン教育が全国の学校で浸透していない現段階では、ICT教育に従来の教育と同等の成果を求めることはまだ難しいと考えます。今は、子どもたち同士や教師と子どもとの間で『共有』『共感』するために端末を使えれば合格点でしょう。端末は日常的に使えてこそ、非常時でも生きてきます。多くの学校では、限られた環境で少しでも学びを止めないよう必死に努力をしています。これからもコロナ禍が続く中では、オンラインで実現できること、対面だからこそ実現できることをブレンドしつつ授業を進めることが、現状で取れる最も望ましい対応だといえるでしょう」

(注記のない写真はiStock)