NHK台湾新幹線ドラマを支えた「撮り鉄」の情熱

700Tを16年間撮り続けた男、ロケ地に精通

台湾高速鉄道の開通後、台湾では列車の定時運行率から制服のデザインまで、高速鉄道に関するあらゆることが話題になった。それは呉さんも同様だった。呉さんは車両だけでなく「サービスを含めた高速列車そのもの」の記録を始めたのである。「呉さんは列車に乗るたびに、駅員、運転手、車掌らスタッフの働く姿を撮影していた」。そう話すのは呉さんと知り合って10年になる車掌のゾーイさんだ。

彼女は1つのエピソードを紹介してくれた。ある年の台風の日、呉さんが駅へ撮影に来たことがあった。何を撮影していたのかというと、台風のなか高鉄スタッフが緊急対応を行っている姿を撮っていたのだ。呉さん自身も風雨に打たれながらである。彼の10年来の行動力は何も変わっていなかったのだ。

呉さんの関心は高鉄の車両を越え、高鉄で働く人たちの記録にまで広がった。そんな呉さんの撮影スタイルには、ドラマ『路~台湾エクスプレス~』において主要なモチーフとなった「日台間の細やかな情感の表現」に通じるものがあったのである。

鉄道ファンが「日台共同プロジェクト」のキーマンに

ドラマの撮影では、「高鉄実景アドバイザー」として80人以上の制作スタッフと共に3日間をかけて、台湾高鉄の最南端駅・左営から北上し台南駅を経て苗栗駅まで撮影した。呉さんが提案した場所と撮影のための角度は、どれも監督のイメージにぴったりなものだった。

呉さんが貢献したのは撮影地の紹介だけではない。呉さんは高鉄の時刻表を暗記しており、さらに長年の経験から列車が撮影ポイントにやってくるタイミングをも熟知しているのだ。

「あと3分で来ます!」。呉さんが叫ぶと、スタッフはカメラを構える。トンネルの走行シーンだけでなく、単線区間で列車同士が行き違う「列車交換」や、さらにパンタグラフで散る火花「アーク放電」のタイミングさえも呉さんは把握していた。これには演出を手掛けた松浦善之助氏も「なんという精度だ! まさに達人だ」と驚嘆の声を漏らしたという。

2019年12月初め、高鉄実景アドバイザーの仕事を終えた呉さんに、松浦氏は「呉さんのおかげで私たちは必要なシーンをすべて撮り終えることができた」と固い握手と共に感謝の意を伝えたそうだ。さらに、呉さんが撮影した700Tの写真も日本版の告知ポスターに採用された。こうしてプロのカメラマンでも何でもない1人の鉄道ファンが、日台共同プロジェクトにとってなくてはならない存在になったのだった。

「私自身、大変感動した。そして(ドラマを通して)人を感動させることができると思うととてもうれしい」。呉さんは恥ずかしそうに笑いながらこう語った。彼の「撮り鉄人生」はこれからも続く。

〈台湾『今周刊』2020年5月27日〉

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