伊勢丹流改革が挫折、“北の雄”丸井今井の漂流《特集・流通大乱》

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 こうした伊勢丹流の売り場づくりは、03年に札幌に進出して成功を収めた大丸と実に対照的だった。

開業の5年以上前から社員を常駐させて札幌の市場特性や購買力を徹底分析し、食品売り場一つとっても、神戸店よりも菓子の価格を抑え、弁当の盛りつけを多めにしたという大丸の“芸の細かさ”と比べたとき、「いいものを持っていく」という伊勢丹流MDは、北海道の実情を軽視していたと言わざるをえない。

 丸井今井は長年札幌の地域一番店を守り続けてきたが、大丸の急追で、その座が危うくなってきた。案の定というべきか、昨年暮れにマルイメンズのシャツ売り場をのぞくと、イタリア製品は姿を消し、5000円クラスの国産の形状記憶シャツが棚を大きく占めていた。

三越札幌店が伊勢丹の“自社店舗”

「10年の上場を目指すと言ってきたが、できない。金融機関や伊勢丹などと話し合い、再建計画を修正しなければならない」

丸井今井の畑中幸一社長は昨年10月、北海道新聞のインタビューで再建計画の見直しを表明した。

地元金融機関などは05年の支援の際、「債務の株式化」などで新たに丸井今井に40億円超を出資した経緯があり、上場計画の延期は、上場益による事実上の債権回収が遠のくことを意味する。ただ主力行の北海道銀行は「何とか支えなくてはならない」(幹部)と言い、他の金融機関もリスケジューリングなどには応じる腹積もりがあるようだ。

だが、別の地元金融機関の幹部はこんな不安を口にする。「三越との経営統合で伊勢丹の真意がわからなくなった。伊勢丹が北海道に足場を置くために丸井今井を支える意味はなくなってしまった」

05年当時、丸井今井を支援することは伊勢丹側にも妙味があった。岩田屋(福岡)、名鉄百貨店(名古屋)に続く地方有力百貨店のグループ化によって、札幌という大都市に労せずして進出できたからだ。

丸井今井との業務提携と同時に、新宿店長の関根純氏(現丸井今井取締役専務執行役員)を送り込んだ伊勢丹は、首尾よく業績を立て直すことができれば、13%(5億円)の出資比率を引き上げ、子会社化も視野に入れていたと思われる。

ところが、昨年4月の三越との経営統合によって、伊勢丹の丸井今井に対するスタンスは極めてあいまいになってしまった。

「丸井今井さんを現時点で、具体的にどうするということはありません」。三越伊勢丹ホールディングス(HD)の中期経営計画が発表された昨年11月13日の記者会見。同HD社長を兼務する石塚邦雄・三越社長は、今後の丸井今井への対応について素っ気なくそう答えた。

当然だろう。三越は丸井今井と同じ大通地区に札幌店を持つ。三越伊勢丹HDにとっての“自社店舗”は今や三越札幌店である。出資比率が低く連結対象ではない丸井今井への支援を強化することは、典型的な利益相反になってしまう。

昨年9月のリーマンショック以後の急速な景気悪化は「地方以上に都会の富裕層を直撃している」(平出昭二・日本百貨店協会顧問)。戦後最長の景気拡大期に富裕層を囲い込んで成長を謳歌してきた伊勢丹に1年前までの余裕はなく、一連の再編を指揮してきた武藤信一・伊勢丹社長(三越伊勢丹HD会長)の体調不良もささやかれる。

“北の雄”の将来を正確に見通せる者は、今やどこにもいない。

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