燃料盗難が多発するメキシコ「笑えない対策」 左派新大統領が過去の「慣行」にメス
メキシコで深刻なガソリン不足が生じている。2018年12月1日にメキシコ大統領に就任したアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(通称アムロ)氏が石油、特にガソリンと軽油・灯油の盗難防止に向けた取り締まりを急激に強化したためだ。
ガソリン不足は年明け以降ガソリンスタンドを中心に顕著化。1月5日と6日には32州あるメキシコの6州で完全に燃料の供給ができない状態になった。そのため、ガソリンスタンドに長蛇の列ができ、給油まで長時間待たねばならない事態にまで発展している。
アムロ氏は連日記者会見で、「給油サービスはじき通常レベルに戻る。ガスがなくなったわけではなく、事態改善に向けて動いている」と説明しているが、いまだにガソリンスタンドには長い列ができている。
1日平均タンクローリー600台分の盗難が発生
しかし、なぜこんな事態を招くほど取り締まり強化を急がねばならなかったのだろうか。
実はメキシコでは、燃料の盗難が年々増えており、1日平均して1万5000リットルを詰めるタンクローリー600台相当の燃料が盗まれているという。多い日には1日に800台近くに相当する量が盗まれている。これは、メキシコ石油公社(PEMEX)の石油生産量にして10%に相当する量で、金額にすると663億ペソ(約3700億円)分の燃料が盗まれていることになる(2018年)。これは、メキシコの年金受給者に支払う年金額の6割に相当する規模だという。
盗難額は2000年が120億ペソ(約670億円)だったが、2016年には308億ペソ(約1700億円)、2017年には501億ペソ(約2800億円)に拡大。これに対してアムロ氏は、「これは長年知られていたことだ。これまではPEMEXの売り上げからその分を差し引いて(内部で隠蔽していた)いたのだ。盗難は約18年前から行われていた」と語っている。
これだけ大規模な盗難が起きるのにはその背後に盗難組織が存在していない限り不可能である。そこで重要なカギを握っているのが、メキシコではびこっている麻薬組織カルテルである。こうした組織に対して、メキシコの採油および販売をほぼ独占に近い規模で占有しているPEMEXの一部職員が秘密裏に協力しているとみられている。
複数のメディアによると、こうした盗難を仕切っているのは麻薬組織カルテルと、その配下の小規模な犯罪組織だが、市や州などの自治体はそれを黙認している。理由は盗難した燃料の売り上げが議員の選挙資金などに回されることがあるからだ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら