"3年の任期付き"でも教員経験者が殺到!鎌倉市が「市費で正規教員採用」に踏み切った訳 若手からベテランまで全国から123名が応募

制度創設は「教育の質向上」への戦略的取り組み
「市費負担教員制度」を創設した背景について、鎌倉市教育委員会次長(学びみらい課)の小原聡真氏は、「単に教員が不足しているから市費で採用しようというものではなく、教育の質向上を目指すための戦略的な取り組みです」と強調する。
同市が2025年4月に策定した「鎌倉市教育大綱」では、「“炭火”のごとく誰もが学びの火を灯し続け、生涯にわたり心豊かに生きられるまち鎌倉」をビジョンに掲げ、「学習者中心の学び」の実現を目指している。
この教育大綱で重視されているのは、「これまでの『何を教えるか』という視点から、『子どもたちがどう学んでいくのか』という視点へと転換し、そのための環境整備を行うこと」だと小原氏は説明する。
ビジョンの実現につながる施策として、市教委では、どこでも学べるようLTE対応のICT端末を導入するほか、教員が外部の人材・組織と連携して探究学習などを行う際にかかる費用を寄付金で募る「鎌倉スクールコラボファンド」の設立などを進めてきた。
さらに、こうした環境を最大限に生かす人材の確保が必要との観点から、市費負担での教員採用に踏み切ったという。市費で非常勤教員やサポートスタッフを採用する自治体は多いが、政令指定都市以外の自治体が正規教員を採用する例は全国的にも珍しい。
「基本的に、県費負担教職員制度の下では正規教員の採用権限を持つのは県や政令市のみで、中核市ですらない鎌倉市が独自に教員を採用することは想定されていません。しかし、学校現場ではほとんどの教員が学級担任と他業務を兼務しており、授業改善や単元設計などを組織的に進めることに手が回らないのが実情です。
こうした中では、やはり学校の設置者である教委が採用に責任を持つことが、学習者中心の学びに向けた研究・研修体制の整備や、子どもたち1人ひとりを包摂していく校内の支援体制の強化につながると考えました。外部から人材を迎え入れることで、学校組織の多様性を高める狙いもあり、新たに条例を制定して市で採用をすることになったのです」
今回の応募資格は、教員免許を保有し、直近10年間で2年以上の学校勤務経験があること。小・中学校において学級担任を担える人材のほか、全国的に教員免許保有者が少ない中学校の技術科・美術科の授業を担える人材も募集の対象とした。後者については「現在の学習指導要領で重要度が増しているSTEAM教育を推進するためであり、教科の専門性を重視した結果」だと小原氏は説明する。
求める人物像としては、「学習者中心の学び」の理念を実現できる指導力や、鎌倉の文化・自然・社会資本を存分に生かした学びを実践できる単元構想力を有することに加え、置かれた環境・文化に応じて自らのやり方を変えることができる素直さやコミュニケーション能力なども重視する。また、公務員としての高い倫理観があるかどうかも、面接の機会や日本版DBSなどを活用しながら丁寧に見ていくという。