大学生の「メンタル不調」増加、知的で繊細な子が多い?大学生も夏休み後は要注意の訳 発達障害や精神疾患への合理的配慮も課題に
自身の特性を理解し、それに沿って人生をデザインする意識を
石井氏は、大学生のメンタルヘルス支援についての研修や講演も行っており、大学における学生への合理的配慮のあり方や自殺予防対策などについて話す機会が多いという。
「合理的配慮の具体的な内容はケースバイケースです。聴覚過敏がある学生には授業中にノイズキャンセリングイヤホンの使用を許可するなど、発達障害の場合は特性に応じた配慮が比較的しやすいのですが、精神疾患の場合は、不安発作を予防する薬を服用するために授業中の途中退室を認めるなど、取れる措置がかなり限られてしまうこともあります。このため、心理的な部分はカウンセリングなどを行う学生相談部門が支援を行い、具体的な解決法が想定できる場合に『合理的配慮』が発動することになります」
学生がメンタルヘルスについて学ぶ機会としては、新入生オリエンテーションの際に説明を行っている大学が多く、医学部を持つ国公立大学では臨時講義が実施されることもあるという。さらに自殺予防対策として、教職員のみならず学生に向けても、悩んでいる人に気づいて声をかける「ゲートキーパー」になるための研修を実施している大学もあるそうだ。
「自殺予防のためには、自殺念慮を持つ学生の情報を学部の教職員とも共有しながら支援を行う必要がありますが、学生自身が情報共有を拒むケースもあり、慎重な対応が求められます。学生たち同士でも、『最近痩せたみたいだけど、調子がよくないのでは』などと温かい目でお互いを見守り合いながら、元気がない友人がいれば専門家につなぐゲートキーパーの役割を果たせるようになれば理想的だと思います」
早稲田大学には通年で「精神医学概論」という授業があり、メンタル不調の予防策や初期のうちに気づくためのポイントなどを教えている。学生からは、メンタル不調にSNSが影響しているという声が目立つというが、SNSで絶えず他人の評価にさらされるのは、やはりストレスフルなのだろう。
「知的で繊細、敏感な学生が増えている」との実感があるという石井氏だが、「最近の学生は『いい子』が多いので、タフさを併せ持つにはどうすればよいかが課題と言えるかもしれません。気質そのものによい・悪いはなく、またすぐに変えられるものでもないので、自分の気質とどう向き合うかの方向付けを行うことが大学生のメンタルヘルス支援では重要」と話す。
今後の人生につながる出来事に多く直面する大学生は、将来に不安を感じてメンタル不調に陥りやすい。だが、組織として支援できることにもマンパワー的には限界があるだろう。だからこそ予防や日ごろの意識が大事になる。
「学生は、ギリギリの状態になってしまう前に、自分自身を客観視することを心がけてほしいと思います。そして、自身の特性をある程度は理解して、それに合わないことにやみくもに挑戦することはせずに、特性や適性に沿う形で人生をデザインしてほしい。教職員の方々もそのような視点でサポートをしていけるとよいのではないでしょうか」
(文:安永美穂、注記のない写真:Fast&Slow / PIXTA)
東洋経済education × ICT編集部
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