大学生の「メンタル不調」増加、知的で繊細な子が多い?大学生も夏休み後は要注意の訳 発達障害や精神疾患への合理的配慮も課題に

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人間関係の悩みは人それぞれですが、一例を挙げると、『自分の発言が誤解を招き、サークル内で孤立してしまった』といったサークル内の人間関係の悩みや恋愛関係の悩みなどがあります。親子関係では同性の親との関係性に悩む声が多く、『就職内定を得たものの、もっとよい企業に就職してほしかったという思いを父親が言外ににおわせていてつらい』といったケースもありました」

これらのストレス要因によるメンタル不調は、病名としては「適応障害」にあたるという。

「適応障害は、本人がもともと持っている思考や認識のパターンが、現在の環境や課題にうまく適応できないことで心身に不調をきたす病気です。ただ、ストレス反応自体は誰にでもあることで、著しい症状が見られる場合は治療の必要がありますが、適度なストレスに対処する経験を積むことは本人の成長の糧となります。大学生の場合はその見極めが難しいところですね」

また、発達障害の学生が受診するケースも増えているという。本人が自分は発達障害なのではないかと感じて受診するほかに、幼少期から高校時代までの間に何らかの診断や支援を受ける機会があったものの、大学に入ったことで支援が途切れてしまい、日頃の言動を見ている研究室の指導教員などから勧められる形で受診する人もいるそうだ。

「発達障害はどこからが障害なのかがあいまいな部分もあるため、診断の有無には重きを置かず、一人ひとりの学生の特性に応じたサポートを行っています。例えば、スケジュール管理を苦手としている学生には、保健センターのスタッフが『今日の予約時間は○時ですよ』とリマインドの連絡をしたり、予約日時に受診されなかった場合には状況を電話で確認したりすることもあります」

障害のある学生への「合理的配慮」が私立大学でも義務化

2023年度のJASSO(独立行政法人日本学生支援機構)の調査では、メンタルヘルスの支援に関する組織を設置している大学は全体の92.3%に上る。

ただ、学生相談に関する組織にカウンセラーを配置している大学は全体の94.8%であるのに対し、医師を配置しているのは国立大学では93.0%、公立大学では41.8%、私立大学では44.1%と配置状況にばらつきが見られる。

「国立大学では1980年代頃から横並びでメンタルヘルス対策を進めてきましたが、私立大学では義務ではなかったため、大学ごとに必要とする対策を選んで導入してきたケースが多く見られました。

2024年4月からは障害者への合理的配慮が私立大学にも義務化されたことを受けて、発達障害や精神疾患を抱える学生への合理的配慮をどうするかが喫緊の課題となっています。合理的配慮を行うにあたって、専門的な対応をする窓口や組織を設置する大学が増え、相談件数もさらに増えていくのではないでしょうか」

石井氏が勤務する早稲田大学では、毎年春の健康診断の際にメンタルヘルススクリーニングを実施し、問診票にうつ的な気分や不安な気分があるかを尋ねる項目を設けている。該当した学生はより詳細なスクリーニング検査を受け、一定の点数以上となった場合は保健センターの精神科医が面接する仕組みとしており、面接を必要とする学生は「毎年少しずつ増えている」という。

保健センターを受診する学生の症状としては、落ち込みなどの精神的な症状のほかに、不眠、食欲減退、めまい、頭痛、動悸、異常な発汗などの身体症状の訴えも多いという。症状が一定期間以上続き、生活に支障が出ている場合は、ストレス反応を和らげる薬を一時的に処方することもあるそうだ。そこまで至らない場合は、学生相談センターでカウンセリングを受けることを勧めるケースもあるという。

「例えば、完全主義の考え方で自分を追い込んでしまう学生には、『やるべきことに優先順位をつけて4番目以降は6~7割の出来でいいですよ』と伝え、継続的に診療を続ける中で、本人から『この部分については他の人に任せることができました』などと報告してもらうといったやり取りをしています。投薬を必要とするケースも多いため、定期的に受診していただくことが多いです」

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