なぜ養護教諭は「自腹」を切ってしまうのか?学校医のお茶や緊急対応……指定カタログに限界 掲示物や収納など「100均での購入」は公費出ず

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「そのため、現任の養護教諭がその場を乗り切るために自己負担で購入すると、それが後任の養護教諭にも引き継がれてしまうのです。前例踏襲でこれが慣習として根付けば、途中で変えたいと思っても、養護教諭1人の一存ではなかなか変えられない。前任校では予算で買えたものが、異動先ではずっと養護教諭の私費で支払われていたと知って驚くこともあると思います」

自腹の慣習を変えられない、保健費アップを言い出しにくい原因の1つとして、養護教諭が各学校に1人しかいないことが多いこともある。

「予算の適切な使い方や、公費で買える物品に関する情報が共有されにくいのです。とくに予算要望の調整や申請方法については、経験値によるところが大きいと思います。若手の養護教諭はそのノウハウを身に付ける機会が少なく、ほかの学校の養護教諭と『〇〇の費用はどう申請すればよいですか?』と会話する時間もありません。孤独な状態で不安を抱えている養護教諭は多いのではないでしょうか」

自腹問題の根本にあるのは、養護教諭の「働き方」

にこさんは、「自腹問題は、お金の問題ではなく働き方の問題」 と指摘する。「かかった経費は職場で申請すればいいのでは?」と言うのは簡単だが、多忙な日々の中で、時間や労力をかけるよりも自分で買ってしまった方が早い、という現場の疲弊感が自己負担を助長していると言えよう。

さまざまな要因が複合的に作用し、教員の自己負担が増えることで働き方の負担感にもつながっている養護教諭の「自腹問題」。現状を変え、養護教諭が安心して働ける環境を作るためには何から始めればよいだろうか。

「まず、養護教諭自身が自腹問題を一人で抱え込まないことが重要です。1人でも2人でも相談できる人を校内に作る、地域やオンラインで同じ養護教諭のネットワークを作って情報交換することを勧めます。それができてきたら、お茶出しなどの慣習を見直して『思い切ってやめる』につなげていけるのではないでしょうか」

保健費不足の悩みには、保護者や子どもたちの声を活用することも有効だ。例えば、保護者から「熱中症対策のために、経口補水液や塩分タブレットを準備してほしい」などの具体的な要望があがれば、養護教諭も管理職や教育委員会などに申請しやすく、予算を動かす強い力になるという。こうした要望は「オンラインアンケートなどを活用して見える化もできます」とにこさんは語る。

また自治体レベルでは、共同調達など効率的でタイムリーな物品調達システムの構築も求められる。

「せっけんなど必須の消耗品については、学校ごとではなく自治体がまとめて購入・配布する方式を採用しているところもあります。これは、効率化と個々の学校の業務負担軽減につながる可能性があると思っています」

養護教諭の「自腹問題」は個人の負担にとどまらず、子どもたちの安全や健康管理、そして養護教諭自身の働き方にも直結する課題だ。

「必要な学校保健備品や消耗品を適切に確保する体制を整えるために、管理職と養護教諭が横並びのチームとなって、『子ども中心』で予算編成を考えてほしいです。その中で、過剰な業務を手放す流れができれば、学校全体の方針として、これまで自腹で続いてきた慣習的な業務も徐々に廃止されていくのではないでしょうか」

(文:長尾康子、注記のない写真:Fast&Slow/PIXTA)

東洋経済education × ICT編集部

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小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。

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