なぜ養護教諭は「自腹」を切ってしまうのか?学校医のお茶や緊急対応……指定カタログに限界 掲示物や収納など「100均での購入」は公費出ず

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引率中の見学先や行程に関連した自己負担もある。

「劇場やテーマパークに同行しても、体調不良の子どもの付き添いや救護室待機のため、入場料を支払っていながら外で待機していることもあります」。 チケット代は事前に団体料金で徴収・支払いがされるため、払い戻しは難しい。年間を通じて数回引率すれば、合計数万円の自己負担になるケースもざらだという。

<学校医や講師へのお茶出しなど“おもてなし”費用>

驚くべきことに、学校医や外部講師へのお茶出しや手みやげも、養護教諭が自己負担で行っているケースがある。「学校保健予算で購入できる物品が限定されていたり、取引業者のカタログに掲載されていないなど、事前に購入できない状況があるのかもしれません」と、にこさんは語る。

<緊急時やイレギュラー対応で“仕方なく”自腹購入>

なかでも切実なのが、緊急時や突発的な事態に対応するための自己負担だ。「経口補水液(OS-1)、ナプキンや替えの下着などを自腹で購入した」「子どもたちのために無償で準備した」「カタログ注文だと時間がかかるので、薬局で買った」 といった声が多数寄せられている。

「子どもの健康に関することは『今すぐ必要』という状況に陥ることも多いです。そこで、学校のシステムと緊急性との間で養護教諭が板挟みになってしまい、自己負担につながるのではないでしょうか」

<日常の消耗品や備品に及ぶ“ちりつも”の出費>

ほかにもアンケートからは、日常的に使う文房具や掲示物、保健室の整理収納用品を自己負担している様子が読み取れる。「整理収納用のカゴや画用紙などは、100円ショップで買った方が早いし安い」との声は多い。学校予算で購入できる物品に、ちょうど欲しいサイズや色・品質のものがなかったり、発注手続きに手間がかかる、などの理由からだ。

「勤務帰りに100円ショップでさっと見て買った方が早い、と思う感覚はわかります」

その他、尿検査を病院に提出するための自家用車ガソリン代、運動会で使う氷、応急手当ての授業で使う救急セット、体調不良の子どものための食事や飲み物など、多岐にわたる項目で自己負担が発生していることが明らかになった。

養護教諭の自腹の事例

「自腹」が常態化してしまう学校現場の“構造的な課題”

これらの自己負担は、単に個人の善意や判断だけに起因するものとも限らない。背景には、学校現場が抱える構造的な課題がある。にこさんはまず、学校保健予算の少なさにも自腹の原因があると見ている。

「そもそも、学校の保健費は年数万円のケースが多いのではないでしょうか。その中から、せっけん、絆創膏など確実に減っていく消耗品を購入すると、それ以外の余白はそう多くありません」

さらに、物価が高騰して購入できる物品数が減ることで、養護教諭の自己負担が今以上に増えることも懸念される。

一方で「予算ギリギリでやりくりして、万が一年度末で不足したら……」というプレッシャーもあるようだ。

「またコロナ禍のような緊急事態が起きて、大きな支出がでたらどうしよう、という意識が出費を控えさせ、結果として本当に必要なものへの支出を躊躇させる要因となっている可能性があります」

学校保健予算への認識

学校での物品購入は、一般家庭での買い物とは大きく異なる。オンラインで買って翌日届くわけではないのだ。

「発注手続きや承認フローは煩雑で、多忙な中ではつい後回しになりがち。その結果、緊急時に必要な物品が間に合わず、自己負担につながってしまうのではないでしょうか」

また前述のように、指定のカタログからしか物品を購入できない点もネックだ。取扱品目やメーカーに限りがあるため、その範囲ではニーズを満たせないこともあると言う。

校内で「当たり前」とされている慣習が、自己負担を常態化させている現実もある。にこさんによると、保健費の使い道は学校ごとに違いがある。

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