教員の児童盗撮、防犯カメラで学校が「常に監視される状態」に?今すぐできること 学校の不祥事・教員の問題行動との向き合い方

「指針」の効果はなかった、とも言える。もちろん、「指針」があったために問題のある教員を発見して処分できた、という見方もできる。
ただ、摘発はできても未然に防ぐことはできなかったのだ。そのために、被害を受けた子どもがいたことはたしかである。事件を摘発することも大事だが、まずは未然に防ぐ策を講じることを優先しなければいけないのではないだろうか。
盗撮事件を受けて名古屋市は、外部の有識者による第三者委員会を7月中に設置し、全市立学校の教員約1万2000人を対象に、同様の事案がないかを調査する方針を表明している。広沢一郎市長は、「(盗撮をした教員が)まだいるんじゃないかと市民、国民が疑念を持っている」と調査の必要性を訴えている。
ほかに盗撮教員がいないことを明らかにすることで市民や国民に安心してもらう、ということのようだ。しかし、全教員を容疑者扱いするかのような調査を、教員は快く受け取められるだろうか。それによって教員が暗いムードをまとえば、学校全体が暗くなってしまう。子どもにも、決してよい影響は与えない。
学校を監視社会にしてしまえば「暗い学校」に一直線
今年6月30日の有識者会議でこども家庭庁は、面談室など児童と1対1になる場所には性暴力防止へ防犯カメラの設置が有効との認識を示している。これについて7月1日の記者会見で問われた阿部文科相は、1対1または少人数となる場面など、「複数の人の目が届きにくい限定的な場面でのカメラの活用は考えられる」と述べている。
これも「常に監視される状態」を学校内につくることで、教員全員を信用しないことを前提にしている。名古屋市の全教員調査と同じで「暗い学校」につながる可能性が高く、教員や子どもへの影響を考えれば、軽率な導入は避けたほうがいい。
前記の発言の前に、同じ会見で阿部文科相は「子どもたちの日常の活動がすべて録画されているという状況の是非などを踏まえますと、一般の教室への設置を広く推奨することはさまざまな議論があるものと私どもも思っております」と慎重な姿勢をみせてもいる。防犯カメラを教室に設置して学校を監視社会にしてしまうことに批判的な意見が多いことを文科省としても理解しており、簡単には踏み切れないと考えているのだ。
学校を監視社会にしてしまえば、それこそ「暗い学校」に一直線に向かうことになる。学校の望ましい姿なのか、慎重に考える必要がある。すぐにも目に見える効果を求める気持ちもわからないではないが、拙速な対処を優先してしまえば、子どもの成長を支える役割を担う学校そのものを崩壊させかねない。
「教員の目」と教員間のコミュニケーションが抑止に
置くべきはカメラではなく、「教員の目」である。例えば、現在の複数担任制を、かたちだけでなく、実質的にクラス運営を複数の教員で行うようにすれば、性暴力にいたる行為を防げるはずだ。教員の目が増えれば、子どもに対しても細かな目配りができるようになる。学校としての本来の機能を発揮できることになる。

フリージャーナリスト
1954年、鹿児島県生まれ。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。著書に『学校が合わない子どもたち』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』(朝日新聞社)、『ほんとうの教育をとりもどす 生きる力をはぐくむ授業への挑戦』(共栄書房)、『ブラック化する学校 少子化なのに、なぜ先生は忙しくなったのか?』(青春出版社)、『教師をやめる 14人の語りから見える学校のリアル』(学事出版)など
(写真:前屋氏提供)
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