不安定な生産も、他の農家と連携することで互いに補完できる。「小松菜が予定ほど採れなかった」としても、ネットワーク内の別の農家の小松菜をフレキシブルに充填できる、といった具合だ。
この仕組みを実現できているのは、自社開発したシステムの存在が大きい。約400軒の取引農家は、生産量や生産状況を坂ノ途中独自のデータプラットフォームで開示して共有している。そのため受発注の自動化をはかって農家の手間を減らすと共に、全体の需給バランスや収益性を推し量れるため、栽培のムダやムラを回避しやすい。
同じ農産物を似た条件でつくっている同業者のノウハウも学べる。バイヤーに声がけすれば、直接、他の農家を紹介してもらい、ノウハウを直接、学べるという。契約農家は坂ノ途中と取引することで、効率化や収益化をはかりやすくなるうえ、技術や知見の磨き上げもできるわけだ。
「僕らは『少量不安定な農産物』でも買い支えられる。8割以上が新規就農者の方々だが、その81%が『経営が成り立っている/黒字を継続している』と答えている」(小野氏)
とはいえ、ただ農家をネットワークでつなぎ、宅配による出口をつくっただけで新たなバリューチェーンが育つわけではない。
「安心・安全」をうたわない
坂ノ途中のすごみは、また別の場所にもある。1万2000件に及ぶ宅配による購入会員の「客筋の良さ」と「エンゲージメントの高さ」だ。
購入会員数は創業時からじわじわと増やしてきたが、「6割ほどはもともと有機野菜などを買った経験がない」のだという。有機野菜に興味はあっても手にとってこなかったライト層の支持を得ているのだ。言い方を変えると、有機野菜の市場を広げている。
なぜ、それができたのか? 秘訣は見せ方にある。
「環境負荷の少ない農業を」「有機野菜の宅配事業を」といった環境志向を強く打ち出すと、消費者からはやや先鋭的に映りがちだ。科学的根拠を示すことなく、「安心・安全」と訴えると、むしろ腰が引ける層も少なくない。
「それでは高いソーシャルインパクトは出せないし、ビジネスとしてもスケールしにくい。ですので、僕たちはサイトデザインも、そこに乗せるコピーもストイックではなく、やわらかなトーンにしている。わかりやすくいうと、『安心・安全』という言葉を使わないようにしている」(小野氏)
売り上げの1割ほどを占め、成長が続くBtoB向け販売も同様だ。百貨店や高級スーパーマーケットなどに「坂ノ途中コーナー」を設けて、野菜などを置いているが、什器やPOPはやわらかでカラフルなデザインを採用している。あくまで「ちょっと気になる」「ためしに手に取ってみたくなる」雰囲気をかもしだし、ライトユーザーをとりこむ意思を感じる。
そうした結果、比較的、中間層といえる大きなパイにリーチできているという。
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