映画が子どもの "新たな一面"を引き出す?教員・保護者にも観てほしい作品をピックアップ 未知の作品との出合いで「人生が変わる」経験も
これだけでも十分印象的な出来事だったが、後日母親から届いたDMを読んで、有坂氏はさらに驚くことになる。
「男の子たちは『海の上のピアニスト』のピアノ演奏シーンに感動して、自分たちから『ピアノを習わせてほしい』とお願いしてきたそうです。DMにはお礼とともに、『子どもたちには色々な体験をさせたくて、さまざまな場所に連れて行きましたが、まさかピアノに興味を持つかもしれないとは一度も考えたことがありませんでした』と書かれていました。
このエピソードは、映画に子どもの可能性を引き出す力があることを証明しています。子どもの年齢や興味に合わせて作品を選ぶのも、決して悪いことではありません。しかし、未知の映画との出合いによって、子どもの新たな一面を発見できることもあるのです」
誰と観るか、どこで観るかで映画の印象はまるで違う
有坂氏が小学校で行った上映会でも、あえて、一般的な大人が子どもに選ばないであろう作品を選んでいるという。その良い例が、サイレント映画だ。
「サイレント映画にはセリフがなく、表情や動きだけで物語が展開します。字幕を読む必要がないので、実は子どもにとってはわかりやすいかもしれません。特に、『キートンのセブン・チャンス』という1925年のモノクロ映画は、主人公が体を張って逃げ回る姿が子どもたちに大ウケしました。上映会では映画後半のアクションシーンを抜粋し、この作品を100年前に撮ることが当時どれだけすごいことだったのか、解説もつけました」
「学校の上映会では、映画館で観るのとはまったく違った映画体験になります。作品選びはもちろん、“どんな環境で観るか”も、映画を楽しむうえでとても大切」だと有坂氏は続ける。
「映画館では、上映中は静かにしなければいけませんよね。しかし学校の上映会なら、子どもたちも肩ひじ張らずに映画を楽しめます。思いっきり笑ったり、寝転んだり、おしゃべりをしたり、気分が乗れば踊ったっていい。子どもたちにとって、本来映画は自由で楽しいものです。映画があまりに面白いので、やんちゃな男の子が『次笑っちゃったら僕たちの負けね!みんな、我慢するよ!』と勝負を挑んできたこともありましたが、最終的には案の定、会場は子どもたちの爆笑の渦に包まれました」
上映後、子どもたちに一番面白かった映画作品を聞くと、それぞれ「キートン!」「チャップリン!」などと返ってきたそうだ。
「小さい子どもたちから、往年の映画スターの名が出てくるのはなんとも感慨深いですね。大人がつい敬遠してしまうような名作も、子どもにとっては人気アニメなどと同じく『楽しい映画』でしかないのです。こうした経験の積み重ねが、今後も抵抗なくさまざまな映画作品に触れる土壌になれば、と思います。そうした意味でも、学校での上映会はもっと増やしたいですね」
有坂さんが子ども、教員、保護者にすすめたい映画は
新学期に入り、新しい環境に漠然とした不安を抱える子どもたちに観てほしい作品を尋ねると、有坂氏は「大人の目線から、子どもにメッセージ性の強い映画をすすめることは、あまりよくないのではと思っています。映画は楽しいことが何よりも大事で、それをきっかけに、観た作品について語り合いたくて『学校に行きたい』『友達に会いたい』と思えたらよいのではないでしょうか」と答える。
そのうえで、前述の『キートンのセブン・チャンス』に加え、小学校高学年から中学生向けに『マイ・フレンド・フォーエバー』を推薦してくれた。
「HIVにかかった少年と、母親と2人暮らしで孤独な少年との友情を描いています。命の大切さや、今は当たり前に近くにいる友達の大切さを、改めて認識できる作品です。子どもながらに何かしら感じるものがあるでしょう」