中道右派の立場をとる保守党は、経済成長を優先し、健全財政や規制の緩和を重視する。一方で、中道左派の立場をとる労働党は、所得再分配を優先し、拡張財政や規制の強化を重視する。
近年、この構図は崩れており、保守党も所得再分配を優先するようになっている。そのため労働党は、ある意味、従来よりも所得再分配に重きを置くようになっている。
その労働党が、2024年7月の総選挙で歴史的な勝利を収めて、14年ぶりに政権に返り咲いた。筆者は折に触れて、労働党政権による経済政策運営が経済成長にも配慮する現代的な左派路線(ニューレイバー)ではなく、所得再分配に重点を置く従来型の左派路線(オールドレイバー)であれば、英国経済の停滞は長期化するとの見解を示してきた。
スターマー政権はオールドレイバーそのものだ
残念ながら、労働党政権が示した予算案は、オールドレイバーを彷彿とさせる再分配重視の左派路線だった。その象徴が、国民保険料の雇用主負担の引き上げだった。国民保険制度を拡充するコストを、労働党政権は雇用主だけに求めようとした。ゆえに、負担が増える企業は、その費用を捻出するために、雇用か給与を削減する必要に迫られている。
本来であれば、左派路線は、使用者(経営者)よりも被用者(労働者)の権利を手厚く保証する。年末に国民に向けて放映されたビデオメッセージで、スターマー首相は、労働者の権利を守ることを推し進めると明言したようだ。
しかし、現実には、スターマー首相が率いる労働党政権の左派政策は、英国から雇用を失う方向に働くという皮肉がある。
要するに、依然としてスタグフレーション(景気停滞と物価高進の併存)の軌道にある今の英国経済に、所得再分配を優先するほどの余力など、存在しないのである。
処方箋としては、何よりまず、供給力を高めるための産業支援、具体的には規制緩和が望まれるところだ。それはつまり、労働党による再分配政策とは真逆の成長政策だということだ。
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