「円安批判」するトランプ氏に伝えたい日本の実情 サービス赤字と対米投資で貢献する「仮面の黒字国」

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この点、日本企業はアメリカ・欧州・グローバルサウスという3極を軸に拠点の再構築を迫られる現状がありそうだが、トランプ氏の働きかけがなくともすでに設備投資の実績が多くあり、(他の2極に比べれば)予見可能性が高いアメリカは投資先として選ばれやすいのではないか。

歴史的に、日本企業が対米貿易で得た外貨が、対米直接投資を通じてアメリカへ還元されている事実は誇ってもいいし、今後もそうなる可能性はある。

「仮面の黒字国」の実利は海外へ

そうした日本企業による対外直接投資からの収益は年々拡大しているものの、その半分近くは日本へ回帰せずに現地で外貨のまま再投資される傾向がある。

統計上は、直接投資収益の増加で第1次所得収支黒字ひいては経常収支黒字が切り上げられているものの、再投資収益の占める割合が年々拡大しているため、実際のところ、日本経済にとって実体的な影響は乏しい。

「統計上は黒字だが、キャッシュフロー上は黒字ではない」という状況について筆者は「仮面の黒字国」問題と呼んで議論を展開してきたが、この事実は今や日本の経済論壇では通説化し、政策担当者からの照会も非常に多くなっている。

こうした日本の立ち位置は第2次トランプ政権の下で積極的にアピールすべき論点である。

どう考えても「仮面の黒字国」の実利を享受するのは投資受け入れ先の国(この場合はアメリカ)であり、投資主体(この場合は日本企業)ではないからだ。

アメリカを筆頭に日本企業から投資を受け入れてきた国はそこから雇用創出効果などを享受でき、賃金上昇という恩恵も当然あったはずだ。かたや、日本は経常黒字を抱えていても通貨安によりインフレを輸入するような状態に悩んでいる。

だが、為替市場でしばしば話題になるアメリカ財務省の「為替政策報告書」は、為替操作国認定にあたって経常黒字の多寡を判断基準として設定しており、上記のような「仮面の黒字国」問題は斟酌してくれない。

日本(の経常収支)が置かれている状況を客観的に考えれば、アメリカから「通貨安で黒字を貪っている」といった旨の批判を向けられても、戸惑いしかない。

日本の経常黒字に関しては、アメリカから称賛されることはあっても非難される筋合いはないという事実を、国際収支統計の数字を中心として第2次トランプ政権にもしみ込ませていくことが、まず石破政権に期待される所作の1つとなっていくのではないだろうか。

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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