アメリカ経済はこれまで粘着質なインフレが長引いていたにもかかわらず、強い個人消費のもと堅調に推移していた。ここに来て急な後退局面に入りかねないというのは、中国経済の不調とあいまって世界経済全体にとって大きなリスクである。
日本株式市場の暴落も需給でみれば海外投資家の資金引き上げがメインとみられ、アメリカ経済を軸にした先行き懸念がまずある。そして、そこに日米の中央銀行のスタンスに違いがあることから為替に影響し、さらなる日本株への影響につながったといえる。
市場の一部やネット上では暴落への混乱から日銀に責任を求め、利下げを訴える見方が一部に出るが、まだまだ金融環境は緩和的な状態であり、今回の市場の急落要因を考えれば、現時点での利下げ要求は論外だろう。
望まぬ形となってしまった円安是正
そもそも日銀が利上げした背景には個人消費が弱い中で円安により、物価が想定以上に上振れてしまうと消費が低迷したままになるとの危惧があった。すでに物価上昇率は日銀が求めていた2%水準をこえる状態が長く続く。
植田総裁は7月末の記者会見で「(円安が)消費者物価の見通しに影響を及ぼしたわけではないが、現実(見通しより)が上振れるリスクとしてはかなり大きい」と述べた。
利上げで過度な円安を是正したい、とはいえ、一方で円安基調が続いている中で円安是正が主目的と理解されると催促相場を招いて、市場から際限なき利上げを求められかねない――。7月中旬からの円高基調は、こういったジレンマを感じることなく利上げするのに願ってもないタイミングだっただろう。
しかも、通常は景気への悪影響から利上げに否定的な政府・与党から相次いで利上げを求める趣旨の発言が続いた。実質賃金のマイナスが続き、円安によるインフレ懸念で個人消費が冴えないと目された中、植田総裁としてはアメリカ経済が堅調なうちならば円高に急進行することなく利上げによる円安牽制で個人消費回復に期待したいと考えたのだろう。
円安への懸念が国民的に広がった日本では、冴えない個人消費対策と輸出企業の収益確保のバランスをとるための緩やかな円高ドル安が望まれていたといえる。会見でも「少しずつでも早めに調整しておいた方が後は楽になる」(植田総裁)と発言しているが、アメリカが利下げを本格化してから日銀が利上げをすると、金利差が急速に縮み円高ドル安がヒートアップしかねないリスクは高まる。
残念ながらアメリカ経済への懸念が急速に広がってしまい、日銀や多くの国民が期待したような形での円安是正にならなかった。2024年夏の悲劇は、待ち望んだ過度な円安の解消が、実は望まぬ形で始まってしまったというショックの表れである。
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