ブラックボックス化された私立学校の文化や待遇
もちろん、すべての私立学校が同じ状況ではない。「給料も職場環境もピンキリ」と江藤さんが話すのは、自身の経験も大きい。
「中学校まで勉強が嫌いだったんですが、私立高校に入って初めて『面白い』と思ったんです。先生がひとつひとつ深掘りして教えてくれて、探求する楽しさを知りました。待遇も良いと聞いていたので、教員になってみようと思ったんです」
だから江藤さんは禁じられても生徒の質問に答え、独自に教材を工夫するなどできる限り誠実に職務に取り組んだ。「いつ辞めてやろうか」と思いながらも10年の月日を過ごせたのは、「生徒に教えるのが面白かったから」だと話す。
「私立は公立より、自由に教育できる部分はあると思います。組織としての閉塞感はありましたが、1人の教室ならやりたい授業ができますし、しっかり生徒と向き合えました。もう少し給料をもらえていたら、今でもなんとか続けていたかもしれません」
さまざまな教育を試してみたい人にとって、私立高校は魅力的なフィールドだろう。ただ、情報がブラックボックス化してしまっているのが問題だ。
「学校の文化や経営方針、組織内の雰囲気はなかなか外からは掴めないものです。教職員組合の有無や理事会メンバーの構成は目安になりますが、それだけで判断するのも難しいでしょう。それに、公務員である公立の先生に比べれば、どうしても不安定な立場です。有名校だからといって給料が良いとは限らないことも含め、改善すべき点はたくさんあると思います」
文部科学省「私立学校・学校法人に関する基礎データ」の「私立学校の状況」によれば、2022年5月1日現在、全国の私立高校の数は1320校と高校全体の27.4%。生徒数で見ると、高校生の34.3%が私立高校に通っている。次代を担う人材の育成において、私立高校も重要な役割を果たしていることは疑いようがない。とりわけ学校法人という公益法人が運営する学校においては、江藤さんが体験したようなガバナンス不全から脱却し、待遇の向上を含めた経営の健全化を図るべきではないだろうか。
(文:高橋秀和、注記のない写真:Graphs / PIXTA)
東洋経済education × ICT編集部
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