山梨県の「25人学級」、年間9億円の予算・教員の確保に奔走の本気 学級編制標準35人に引き下げを大幅に下回る理由

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

無理して25人学級にせず、この制度を利用した「実質的な少人数学級」を選択する学校も少なくない。そのため、25人学級を導入している学校数は多くないという結果になっているわけだ。それでも25人学級と同様のメリットを、山梨県内の多くの小学校が享受している。

実はこれまでも山梨県は、積極的に少人数学級に取り組んできた。2004年度には当時の山本栄彦知事によって小学1年生に30人学級が導入され、翌年度には2年生にも導入されている。08年度には中学1年生に35人学級を導入したのを皮切りに、11年度から14年度にかけて小学3年生から6年生、中学2年生と3年生にも広げられた。

そうした中で長崎知事がインパクトのある公約として掲げるには、「25」という数字が必要だったのかもしれないが、もちろん政治的インパクトだけを狙ったわけではない。望月氏が説明する。

「知事が強調しているのは、『25人学級は子どもたちの自己肯定感を向上させるため』ということです。全国学力テストの質問紙調査で、本県は自己肯定感が高いという結果が出ています。もともと素質があるのだから、もっと伸ばしていこうということです。一人ひとりの子どもに教員が声をかけられるようになれば、子どもたちの満足感は高まって自信につながるからです」

冒頭の教員の発言からも、長崎知事の狙いは間違っていないことがわかる。

25人学級の財源はどこから?

35人学級については、コロナ禍も追い風となり、国は2021年度から導入をスタート。小学2年生から段階的に5年間をかけて公立小学校の全学年で導入されることになっている(小学校1年生は11年度から35人学級)。この学級編制標準の一律の見直しは、1980年に40人になって以来、約40年ぶりのことだった。それを大幅に下回る学級編制標準を山梨県は実現したことになる。

国の制度であれば、必要な予算は国が負担するが、独自でやるとなれば必要な財源も、自治体自らが確保しなければならない。

山梨県の場合、小学1年生だけに導入したときで2億2400万円、2年生にまで広げたときで4億2800万円の予算が組まれている。そして3年生にまで拡大した今年度は、年間9億円となっている。来年度には小学4年生にまで拡大することも決まっているし、長崎知事は中学生にまで拡大していく意欲を示している。継続的な財源確保が必要となってくるわけだ。

これを山梨県は、県企業局が運営する電気事業会計からの繰入金と法人県民税の超過課税分を積み立てて新設した「やまなし教育環境・介護基盤整備基金」から捻出している。教育庁だけの予算でやろうとしたら、絶対に無理だったはずだ。知事が主導しているからこそ、こうした財源確保が可能だといえる。

いちばんの問題は、やはり教員確保

ただし、財源を確保できたからといって25人学級が簡単に実現できるわけではない。教員を確保できなければ、少人数学級を編制することはできないからだ。

実際、国としてスタートした35人学級も、教員不足から導入したものの維持ができず、上限を引き上げる山口県のようなケースも出てきている。山梨県も、知事の意欲と財源があったとしても、教員が集まらないことには、25人学級を導入し、維持し、拡大していくことはできない。

「教員確保でいちばん多いのは、定年を迎えた方を再任用しての配置です。教員免許を持っているけれど教員になっていない人に電話をかけまくって教員になってもらう、掘り起こしにも力を入れています」と望月氏。

それでも、25人学級を来年度には4年生にまで拡大するというのだから、教員が不足する可能性はある。そこで山梨県は、来年度の小学校教員の来年度採用予定人数を170人程度にすることを決めている。今年度の149人から20人以上も増やし、過去25年間では最多となる採用数だ。

次ページはこちら
関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事