小田急、白いロマンスカー「VSE」がつけた道筋 現在は赤い「GSE」が箱根路のエースとして君臨

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車両の経年劣化や主要機器の更新が困難になる見込みであるというのが引退の要因であるらしい。具体的には連接台車であり、かつアルミダブルスキン構造(アルミで作られたダンボールのような構造)を持つことが災いしたようだ。また新型コロナウイルスの蔓延によって観光需要が大幅に落ち込んだのも、影響しているのかもしれない。

いずれにせよこれで、箱根特急専用車はいなくなった。伝統の連接台車を備えたロマンスカーもいなくなった。VSEの引退は、ロマンスカーと箱根との関係にどう影響していくのだろうか。VSEの持っていた意味を改めて考えてみよう。

「きょう、ロマンスカーで。」のブランド広告とVSEの誕生が、小田急の箱根観光に新たな道筋をつけた。しかしVSEは2編成のまま増備されず、次に作られたのがMSEであるという点に着目したい。運行開始からすぐに大人気となったVSEであるにもかかわらず、マルチに使え外装デザインもVSEと共通しているとは言え、日常の足としての性格が強いMSEを登場させているのは、箱根観光に訪れる人を増やしていくよりも、VSEに希少性を与えることも含めて、箱根に訪れた際の特別感を大きくしていこう、ということだったのではないだろうか。

箱根の観光客数はコロナ禍以前までは年間2000万人前後で落ち着いていたとは言え、人口の減少や経済の落ち込み、経済格差の問題などもある中で、観光客数そのものを増大させてゆくのは、もはや難しいというレベルですらないだろう。コロナ禍が本格的に明けた後も、どうなるかわからないような状況だ。

新型コロナウイルスの蔓延はGSEの誕生後であるためまったくの偶然ではあるものの、コロナ禍で観光客が減っている時期でさえ、日常の足としてのロマンスカーの需要は根強かったようで、「密」を回避するのにも座席指定制は一役買っていたらしい。図らずも観光にも通勤にも強いGSEのメリットが大きく活かされることになった格好だ。

箱根の特別感の演出はどう変わる?

しかしVSEが引退し、箱根の特別感の演出がどう変わってゆくのかはまだよくわからない。とはいえヒントはある。2022年10月から始まったプロモーション「はじめての、ロマンスカー。」だ。これにあわせてロマンスカーナビというウェブサイトとインスタグラムのアカウントが開設され、今までのロマンスカーのトップページであったウェブサイト「きょう、ロマンスカーで。」へのアクセスは、ロマンスカーナビに転送されるようになっている。

『小田急は100年でどうなった?』(交通新聞社新書)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします。

公式にそうだとは言われていないが、おそらく「きょう、ロマンスカーで。」の役割も、VSEと共に終わったのだろう。「はじめての、ロマンスカー。」は女性2人を主人公にし、今までの特別な旅よりも、気軽さを演出しているように見える。箱根へのアクセスのしやすさやロマンスカーの使いやすさを前面に出し、箱根という観光地にイメージを持ったことのない人への導入を行っているかのようだ。

VSEの引退とともに、ロマンスカーと小田急の箱根観光の位置づけは、大きく変わろうとしている。

かつ とんたろう フリーライター

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かつ とんたろう / Katz Tontaro

1983年神奈川県小田原市生まれ。多摩美術大学大学院修了。下北沢や新宿近辺など小田急沿線に長く住み、小田急線に乗り続けてきた。会社員との兼業ライターとして、さまざまなメディアで多くの記事を執筆。とんかつ関連のものが多いが、とんかつのみならず幅広いジャンルで活躍。

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