初任者教員をどう育てる?カギとなる「ベテラン教員を巻き込む方法」とは 「現状は異常事態」現場教員が警鐘鳴らすワケ

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自分たちが苦しんだその思いを若手に味わわせないために

なぜ東久留米市立東中ではこうした取り組みが根付いているのか。

松田氏が同校に赴任したのは2014年のこと。現在も比較的若手教員が多いが、当時もほぼ20代と50代の教員で構成されていたという。松田氏は着任当初の印象をこう振り返る。

「まずは暑苦しい学校だなと驚きました(笑)。熱心な教員が多く、行事にも全校で力いっぱい取り組む。離任式で教員との別れに涙する生徒もたくさんいましたね。年齢構成では40代の先生がほとんどおらず、当時30代になりたての私が若手のトップという状態でした。赴任して1年ほど経った頃、当時の校長に『若手を育成してくれないか』と打診されたのです」

以来、責任に伴って業務量が増す中でも、松田氏は同校で初任者教員の教育に力を注いでいる。当初はほかの教員からの反発もあったが、もともとの「暑苦しい」校風も奏功した。さまざまな研修を試すうち、徐々に「職場全体での若手教育」がうまく回り始めたという。

若手教員への指導や支援は、生徒への指導や支援の力と確実にリンクし、相乗効果をもたらすと松田氏は断言する。その理由は「若手教員も生徒も、どちらも同じ人間だから」。だが、本来は教えることのプロであるはずの教員が、教員への指導はなぜかうまくできない。その原因も多忙にあると松田氏は指摘する。

「仕事が忙しすぎるせいで、教員の育成は『自分の仕事ではない』と思ってしまうのかもしれません。自己流で仕事を覚えてきた世代の方々は『自分たちもそうだった』『昔はこれで頑張ってきた』と言いたくなるかもしれないし、その気持ちはわかります。でも、その頃の自分たちも苦しかったのは間違いないはず。その苦しい思いを今の若手にさせなくていいように、できることをしたいと思うのです」

だが、個人の努力には限界がある。松田氏は教務主任であると同時に3年生の学年主任であり、サッカー部の顧問でもある。何とか時間を捻出して若手教員の指導に当たっているが、すべての教員に同じことを求めるのは難しいだろう。松田氏自身も「そこまでできないという人の気持ちを否定するわけにはいかない」と言う。

「若手教員の育成は教員にとっての義務ではないかもしれません。でも最低限教えてあげなければならないことは必ずある。初任者教員の教育制度整備は急務です。例えば教育委員会などが主導する具体的な取り組みがあっても、その存在を知らない人もいるでしょうし、そうしたことに腰を据えて取り組む時間ないという現状こそが、私は異常事態だと思います」

組織を変えることの難しさを痛感しながら、「教員にとってもよい学校をつくることがよい生徒を育て、よい生徒がやがてよい人間となれば、それがひいてはよい社会を築いていくはず」と語る松田氏。その自負を胸に、この春も同校で初任者教員を迎える。

(文:鈴木絢子、注記のない写真:kou / PIXTA)

東洋経済education × ICT編集部

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小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。

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