初任者教員をどう育てる?カギとなる「ベテラン教員を巻き込む方法」とは 「現状は異常事態」現場教員が警鐘鳴らすワケ
これらの初任者教員向けの教育の成果を、松田氏は確実に感じているそうだ。電話応対の仕方を教えれば、彼らは翌日からすぐに電話を取ってくれるようになる。だがそのことが、松田氏に別の問題点を実感させたという。
「彼らも本当はどんどん挑戦したいし、わからないことは聞きたいと思っているのです。でも周りの教員の忙しさに圧倒されて質問することができない。教員はとにかく仕事が多すぎるし、4月はとくに、みんな目が血走っているぐらいですからね」
どうすることもできず、職員室で人形のようにじっと座っている初任者教員を、松田氏は何人も見てきた。松田氏は彼らに「最初の1年間は、知らないということが武器になる貴重な期間。忙しそう、申し訳ないと思わなくていいから、とにかく何でも聞いてほしい」と声をかけるようにしている。
若手教員の育成はベテラン教員の実力発揮にもつながる
「ほとんどの人が自己流でやり方を身に付けてきた結果、中堅やベテランの教員でも『一般社会の感覚で見たらアウトだろう』という対応をしている人が少なくありません。私たちミドル層の教員が目上の方を指導するのはなかなか難しいことですが、職場全体に方針が理解されていなければ、初任者教員を正しく導くこともできないと思います」
松田氏の若手育成の肝は、この「職場全体での初任者教育」という発想にあるかもしれない。同氏は「若手にこんなことを教えているので、内容をお知らせしておきますね」と、初任者教員向けのマニュアルや資料を学校全体に共有する。「最近の新卒者はこういうことが苦手らしいですよ」と、ベテラン教員にも改善してほしいことを一般論として伝える。あるいは「〇〇先生に教えてもらって、若手がとても喜んでいました」と、ベテラン教員に伝えることで、その「教える喜び」を刺激する。
「私の作った資料を見て『これは自分も知らなかったな』と言ってくれたベテラン教員もいました。昔のやり方を知っているだけに、ベテランの方ほど新しい評価方法で悩んでいるという声も聞きますし、評価方法の資料を自分の参考にしてくれる先生もいます。目上の方への働きかけは間接的なものなので、少しでも効果が出ればラッキーだという程度に考えています。それでも一生懸命やっていればみんな応援してくれて、若手指導でも私の足りない部分を助けてもらえるようになりました」
ベテラン教員の自尊心を傷つけないよう配慮しながら、さりげなく取り組みに巻き込むことで、若手もさらに学びやすくなる環境をつくっているのだ。
「初任者教員だけを優遇すれば、ベテラン教員は『新しい時代に必要ない』とでも言われているように感じて、きっと寂しい気持ちになるでしょう。でも実際は、経験豊富な先生方の知見も絶対に必要なものです。若手も思いっ切り仕事ができて、ベテランも遺憾なく力を発揮することができる。そうした環境づくりこそが自分の仕事なのだと考えています」