2016年に日銀が導入したYCCは、さまざまなひずみを生んだ。日銀の出口戦略について、門間一夫氏に聞いた。
YCCが生んださまざまなゆがみ
──日銀が長短金利操作(イールドカーブ・コントロール=YCC)の取り扱いをどうするかが市場関係者の注目を集めています。
YCCの弊害はすでに明白になっている。日銀が短期金利だけでなく、長期金利まで決めてしまう特殊なやり方によって、国債市場にさまざまなゆがみが生じているからだ。国債の各年限間における金利の相対関係が崩れたり、現物と先物の裁定が働きにくかったりしている。ほかにも内外金利差の拡大で為替の変動幅が増幅するなど、副作用が目に見えて明らかになっている。
YCCが存在する限り、日銀と市場の対話もうまくいかない。中央銀行と市場の対話は金融政策の先行きについて、互いがある程度のイメージを共有することをいう。ただ今のYCCの枠組みでは、日銀が長期金利の許容変動幅を引き上げる可能性を示唆した瞬間に、国債の価格下落を見越した市場から大きな売り圧力がかかる。長期金利まで日銀が決めるYCCというやり方によって、政策の先行きを日銀が正直に語ることができなくなっている。
2016年9月に日銀がYCCを導入した瞬間は本当にこれをやるのかと思ったが、一方で日本は絶対インフレにならないから大丈夫だろうとも思っていた。それがウクライナ戦争を発端とした世界的なエネルギーや食料価格の高騰で日本もインフレに見舞われることになった。円安もそれに拍車をかけている。YCC導入当時に抱いていた懸念が、思いもよらない形で表出してしまった。
──YCCの許容変動幅を0.5%に拡大することを決めた2022年12月の会合以降、さらなる政策修正の観測を受け、債券市場では長期金利の上昇圧力が収まりません。
YCCの変更は、昨年12月のようにサプライズにならざるをえない。だから黒田東彦総裁と市場とのコミュニケーションもうまくいっていない。またこのとき、YCCのレンジ拡大を「利上げではない」と黒田氏が言ったことで、以前の言い方とは不整合になってしまった。「出口というようなものではまったくない」「必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる」などの発言もあったが、市場からは信用されなかった。
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