現下日本でマルクスを生かして独創的な知的営為を展開しているのが、斎藤幸平氏(東京大学准教授)と哲学者の柄谷行人氏だ。2人は国際的にも高く評価されている。斎藤氏はドイッチャー記念賞(2018年)、柄谷氏は「哲学のノーベル賞」と呼ばれるバーグルエン哲学・文化賞(22年)を受賞している。
マルクス解釈の違い
2人の実践的姿勢は、資本や国家のくびきから人間を解放し、コモン(社会的共通資産)を重視するコミュニズム社会を形成すべきだとする点で一致している。また革命に向けた運動体としては、人々が自発的に結集したアソシエーション(結社)を重視する。
2人とも旧ソ連・東欧、中国などの現実に存在する(した)社会主義国を、マルクスが考えたコミュニズムとは本質的に異なる官僚独裁国家と考える。また日本共産党の民主集中制のような「鉄の規律」や、同党のイデオロギーである史的唯物論をスターリン主義の残滓(ざんし)であるとして容認しない。そのため2人のマルクス解釈が似ているとの見方があるが、それは間違いだ。
斎藤氏は「人間と自然の物質代謝に気づいたことがマルクスの偉大さである」と考える。そして、人間と自然の物質代謝がどのような生産様式をとるかが重要になると考える。この意味で、斎藤氏はマルクスの『経済学批判』や『資本論』を素直に読んでいる。
柄谷氏も社会の基本構造を「人間と自然の物資代謝」と考える。ただし、
生産様式ではなく「交換様式」という切り口で歴史と社会を読み解く。
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