「バーチャル教室」も開始、熊本市が不登校生のオンライン支援を進化させる訳 学習支援「フレンドリーオンライン」成果と課題

本荘小学校の学習支援員である西尾環氏も、意欲的に活動し始める児童の様子についてこう話す。
「朝寝坊しても何とかオンライン授業に参加しようとする子は少なくないですし、担任教員が一度も会ったことがないという不登校生が、オンラインでは積極的に勉強することも。私たちの褒め言葉がうれしいと言い、デザインアプリでどんどん作品を作ってきてくれるようになった子もいます。熊本城から校外学習として実況中継していた際に、自己表現が苦手な子が現地まで見に来てくれたときは驚きました。フレンドリーオンラインは教室に戻ることを目指していませんが、その子は教室にも通うようになりました」
フレンドリーオンラインでは、キャリア学習の一環として、Inspire Highによる探究型オンラインプログラムも月1~2回提供している。これは著名人たちが人生観やキャリアなどを語るインタビュー録画を見て学ぶプログラムで、これまで詩人の谷川俊太郎氏やタレントの渡辺直美氏などが登場した。
例えば、谷川氏の回のテーマは「言葉ってなんだろう?」。インタビュー録画を視聴し、詩を作ったりするなどのアウトプットも行う。さらに、同世代の全国の子どもたち同士で、フィードバックができるようになっている。
「自分のアウトプットに全国の10代の子どもたちからフィードバックが返ってくるのが面白いのか、当初少なかった参加者が徐々に増えています。ポジティブなコメントを書くことがルールとなっていることもあり、子どもたちも自己肯定感が高まるようで、多様な考え方があることへの理解や自分のよさの再発見につながっていると感じます」(芳野中学校学習支援員の久木山ちどり氏)
仮想空間の活用も「学習機会の保障と居場所づくり」の一環
こうした中、市教委はさらなる支援の充実を目指し、文科省の「令和4年度 次世代の学校・教育現場を見据えた先端技術・教育データの利活用推進事業」の一環として、2023年1月より2次元の仮想空間を利用した「バーチャル教室」の運用も始めている。
この事業は、民間企業3社が技術提供する共同実証研究で、前述のすららネットはAI型学習アプリ、Inspire Highは探究オンラインプログラム、そして、バーチャル教室を実現するためにNTTコミュニケーションズがオンラインワークシステム「NeWork」を提供している。仮想空間を用いる狙いについて、市教委総合支援課課長の須佐美徹氏はこう説明する。
「フレンドリーオンラインはZoomで行ってきましたが、基本的に児童生徒はチャットやリアクションボタンで反応しても、顔や声を出しません。しかし、中にはパペットや手作りの指人形で反応する子たちがいて、『これは自作のアバターではないか』という話になりました。コミュニケーションに抵抗感が強い子どもたちが、少しでも不安なく交流できるようになるには、メタバースの活用も有効なのではないかと考えたのです」
バーチャルの世界に浸りすぎしてしまわないかと懸念する意見もあったが、学習支援員たちが日々の支援を通じて「子どもたちは、本当はしっかりコミュニケーションを取りたいと思っている」と感じていたこともあり、世界を広げていくきっかけをつくる手段として仮想空間の活用を決めたという。
バーチャル教室は、バブル状の部屋に分かれており、児童生徒はアバターで出入りして授業を受けたり、1対1で誰かとチャットや音声、ビデオ通話などでコミュニケーションを図ったりすることが可能となっている。