日本の未来を変える「STEAM教育」、現場でどう教える? 「自ら課題を立てられる子」は、こう育まれる
井上さんは、STEAM教育に携わる以前から、クリエーティブ会社Barbara Poolの代表を務めている。そこで地域創生事業として人材育成プログラムに取り組む中で、地域の課題に注目、2019年にSTEAM事業部を立ち上げ、Webメディアとして「STEAM JAPAN」をスタートした。その後始めたSTEAM教育研修が経済産業省の「未来の教室」実証事業に採択されることになり、その教育研修を社会に実装させることを目的にSTEAM JAPANを設立した経緯がある。現在では、eラーニング研修を中心に、2000名以上の小中高の先生たちがSTEAM教育研修に参加しているそうだ。こうした活動を続ける中で、井上さんは日本のSTEAM教育の現状をどうとらえてきたのだろうか。
「手段が目的化されることを懸念しています。公教育でも新たに情報科目が導入されましたが、現場では、受験科目の穴埋め問題のような扱いをしてしまうケースも少なくありません。STEAM教育もこうした扱われ方をされては意味がない。もっと、立体的に学びや概念をつくりだすものでなければならないのです。本質的に何が必要なのか。そうした視点からSTEAM教育を広げていく必要があると感じています」
「共創」の時代に、学校教育はどうあるべきか?
デジタル化によって日本社会が急激に変化していく中で、学校教育の現場も変化することは避けられない。そのためにも、当然ながら先生たちの意識変革を促していくことが欠かせない、と井上さんは語る。
「私も本業のビジネスを行う中で、規模にかかわらず、あらゆる企業で新たな発想や視点が求められていることを、強く実感しています。自社だけで新しい価値を生み出せないのであれば、大小問わず他社とつながり、共創しなければ生き残れない。そうした考えが当たり前のようになっています。企業だけでなく、教育の現場でも新たな変革が必要となっているのです」
そのためにSTEAM JAPANでは現在、教員研修のほか、公教育に広くSTEAM教育を浸透させていくべく、さまざまな取り組みを行っている。
その1つが「STEAMアンバサダー制度」だ。これは英国で実施されているSTEMアンバサダーの仕組みを取り入れたものだ。この仕組みでは、企業人、研究者、クリエイーター、アーティスト、地域の方などをSTEMアンバサダーとして認証し、彼らを学校の現場に派遣しSTEM教育の魅力を伝えていくことを目的としている。具体的には、STEM科目の実践的な授業のほか、ワークショップの企画・開催、クラブ活動のサポート、キャリア相談、ロボコンなどSTEMに関係する競技やイベントの審査員などSTEMの魅力を次世代に伝える役割を担っている。
今年2月には大分県教育委員会などと共同でSTEAM教育や宇宙科学技術を通して、次世代人材の育成を目指すオンラインイベント「宇宙と科学の高校生シンポジウム」を開催。県内の約150名の高校生が参加し、宇宙事業の技術者や専門家らによる「STEAM課題研究特別講座」をはじめとして、STEAM教育が体感できるワークショップが実施された。参加した生徒たちからも「社会につながる学びができた」「専門家の話を聞くことで探究心が芽生えた」との声が返ってきており、その中には専門家の話をきっかけに主体的に課題を見つけ、自ら解決策を探ろうと研究を始める生徒たちもいるという。