世界的な金融危機が発生したあのとき、アメリカで1人の経済学者が重要な役割を果たした。希代の理論家が語った白熱の100分を全5回で配信。
――清滝さんにとって、経済学の研究はどのような問題意識から始まったのですか?
よく「社会的分業」と呼ばれるが、私たち一人ひとりの生活は、ほかの人の経済活動に大きく依存している。 一人ひとりは、消費や生産を行うとき、自分の利益や周囲のことだけを考えてバラバラに決めているのに、社会的分業はこうした利己的で分権的な個人の決定とうまく調和している。これは考えれば考えるほど不思議で、アダム・スミス以来の大きなテーマだ。
【ワンポイント解説】
アダム・スミス(1723〜1790年)
イギリスの道徳哲学者、経済学者。当時の重商主義(輸出入関係の商人を重視)を批判し、年々の労働の生産物こそが国富であるとして、個々人の活動が「見えざる手」(市場機構)に導かれて生産の増大をもたらす過程を、社会的分業の観点から分析した。主著は「国富論」「道徳感情論」。
通常の経済学では、市場経済における価格メカニズムが、個々の主体が選択した多数の財の需要と供給を同時に均衡するように調整しているため、分権的な決定と社会的分業は両立すると考えている。
ところが、これを「異時点間」、資金の貸し借りを含めた、現在と将来の財(商品・サービス)の交換という場面まで拡張すると、市場経済はもっと微妙で複雑な動きをしているのではないかというのが、そもそもの問題意識だった。
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