井上ひさし氏の表現法の特徴は、母語としての日本語能力が死活的に重要であるという認識に立っていることだ。ここで重要なのは、母語と母国語が異なる概念であるということだ。〈母語について確認しておきましょうね。母国語と母語は、まったく質が違います。/私たち人間の脳は、生まれてから三年ぐらいの間にどんどん発達していきます。生まれた時の脳はだいたい三五○グラムで、成人、二十歳ぐらいでは一四○○グラムぐらいになります。ちょうど四倍ですね。四倍にもなるのに、なぜ頭蓋骨がバーンと破裂しないのかというと、脳はあらかじめ折りたたまれていて、泉門(せんもん)という隙間がちゃんとある。そこが発達していくから大丈夫なんです。/そんなふうにして脳がどんどん育っていくときに、お母さんや愛情をもって世話をしてくれる人たちから聞いた言葉、それが母語です。/赤ん坊の脳はまっさらで、すべてを受け入れる用意がしてあります。ですから、日本で生まれても、まだ脳が発達していない前にアメリカに行って、アメリカ人に育てられると、アメリカ英語がその子の母語になります。赤ちゃんは、自分を一番愛してくれる人の言葉を吸い取って、学びながら、粘土みたいな脳を、細工していくわけです。〉(井上ひさし『日本語教室』新潮新書、2011年、18ページ)
トピックボードAD
有料会員限定記事
トレンドライブラリーAD
人気の動画

【元手200万円から10億円!億り人の投資術】始めて4年で1億円超え、6年で10億突破/割安成長株に投資/銘柄選びに「会社四季報」を活用/“セグメント”の業績に注目【熱闘!投資園】

【“メタトレンド投資”の極意】10年に1度の大きな流れを予想/右脳に訴える推しCEOを探す/短期投資より長期/テスラはまだ買える?/AIで日本企業がとるべき戦略/今の日本の強みとは?【熱闘!投資園】

【丸紅に“勝ち筋”はあるか】「時価総額10兆円」の本気度/狙うは総合商社トップ3?/集中投資する事業/投資判断は「真剣勝負」/社長は“鬼軍曹”?/バークシャー社との関係性

【 エヌビディア 時価総額4兆ドルの境地】トヨタ自動車の“15倍”/2025年前半の株価は低迷/5月以降に変わった”風向き”/GPUの需要はまだまだ拡大/製造委託するTSMCの供給能力【ニュース解説】
会員記事アクセスランキング
- 1時間
- 24時間
- 週間
- 月間
※過去1ヵ月以内の会員記事が対象
※過去1ヵ月以内の会員記事が対象
※過去1ヵ月以内の会員記事が対象
トレンドウォッチAD
週刊東洋経済の最新号
- 新刊
- ランキング
注目のキーワード
無料会員登録はこちら
ログインはこちら