2017年のトランプ政権発足前後から、米国中西部のラストベルトにおける白人層の生活水準低下に関心が集まっている。たとえば、「取り残された」中西部の人々についての回顧録『ヒルビリー・エレジー』(光文社)が、米国内外で反響を呼んだ。そこには、「この階層の男尊女卑、人種差別的、偏狭な生活様式に米政治が振り回されるのは退行である」という見方が、伏在している。
こうした見方と真っ向から反する解釈を提示する秀逸な書籍が、ジョーン・C・ウィリアムズによる『アメリカを動かす「ホワイト・ワーキング・クラス」という人々』(集英社)である。
同書は、冒頭にマーチン・ルーサー・キングの「平等とは尊厳である」という発言を引用しているように、格差を「尊厳」という価値からとらえる。市民の尊厳を満たすという、踏み込んだ課題を政治に負わせているのである。かつて女性運動などでは、個人の「アイデンティティ」をめぐる政治が強調された。だが、今や尊厳をめぐる政治が前面に登場したと見ることができるのだ。
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