戦争の悲惨さを描いたピカソの名画『ゲルニカ』。そのタペストリーが国連本部のロビーからこつ然と姿を消すところから物語は始まる。9.11同時多発テロ後軍事色の強まるアメリカに、門外不出のゲルニカを呼び戻そうと奮闘するニューヨーク近代美術館(MoMA)の日本人女性キュレーター。大戦前夜、ナチスの軍靴迫るパリで世紀の大作を世に送り出すピカソとその恋人ドラ。二つの時代・二つの物語が同時進行、反戦のシンボル・ゲルニカをめぐって、人々の信念や欲望が交錯する壮大なアートサスペンスだ。
──この小説を書いたきっかけは何だったのですか。
基となる事件は2003年2月に起こりました。当時、イラクの大量破壊兵器疑惑をめぐって国際世論が紛糾し、私はその成り行きを関心を持って見ていました。ついにアメリカを中心とした連合軍がイラク空爆に踏み切るという前夜、当時のブッシュ政権パウエル国務長官が国連安保理会議場のロビーで会見したのですが、そのとき背景にあるべきゲルニカのタペストリーに暗幕が掛けられていたんです。前代未聞の光景で、ほぼリアルタイムで見ていた私は、非常にショックを受けました。
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