桐蔭学園中等が授業化、東大推薦合格者も出す「模擬国連」とは? 国際大会受賞の生徒も語る数々の「身に付く力」
「多角的な視点で物事を見られるようになってきた」
橋本教諭は顧問を務める模擬国連部の活動からその有用性を実感しており、以前からこの授業を構想していた。2019年度の男女共学化によるプログラム刷新のタイミングに恵まれたことで、実現できたという。カリキュラム開発の狙いについて、こう語る。
「6年一貫教育である本校の探究授業は、中等1・2年生で情報の整理や分析、発表など基本スキルを学び、5年生(高校2年生)で研究論文を執筆する流れになっています。自ら問いを立てて論文を書く手前の3年生の段階で、いろいろな角度から世界を見てほしいと思いました。生徒たちが爆発的に成長するためには彼らの中の『当たり前』を崩す必要があり、背景の異なるさまざまな国と交渉する模擬国連を導入することでそれが実現できると考えました」
今までと違う視座を持つことの成果も表れ始め、とくに最近になって生徒たちが多角的に物事を見られるようになってきた手応えを感じている。
「通常は世界を見るときに、一個人としての15歳の視点でしか考えることができません。しかし国の大使になることで、同じ物事でも複数の視点から見ることができます。この経験はレジリエンスにつながるというか、将来何かに行き詰まったときなどにも役に立つと思うのです」(橋本教諭)

また、会議の準備を進める中で、リサーチ力や立案力、論理的思考力、問題解決力、プレゼンテーション力など、さまざまな力が身に付く。とくに平和的解決に導く交渉力が養われるという。
「模擬国連の目的は、全会一致で世界平和を目指す方法を考えることです。そのため大切なのは、相手をディベートで打ち負かすことではなく、相手の話をよく聞き周りの意見を理解したうえで合意を見いだすこと。そこを大切にしています」と、橋本教諭は強調する。
打ち負かすのではなく、意見を「聞く力」を大切に
授業の原点となる後期課程(高校)の部活動「模擬国連部」についても紹介しよう。この実績が実に輝かしい。全日本高校模擬国連大会は7回最優秀大使賞獲得、国際大会は7年連続11回出場で2021年はついに最優秀賞を受賞した。
また、過去に模擬国連部からは東京大学へ学校推薦型選抜で4名の合格者を輩出。「グループ討論や『聞く力』が鍛えられたことなどが関係しているかもしれません」と、橋本教諭は考えている。

早稲田大学大学院文学研究科修士課程を経て2002年より桐蔭学園中等教育学校教諭。国語科・「15歳のグローバルチャレンジ」担当。07年より模擬国連部顧問を務める
(撮影:ヒダキトモコ)
生徒たちの意向で模擬国連部ができた07年から顧問を務める橋本教諭だが、「生徒に頼まれて顧問を引き受けたので、彼らと共に学んできました。恥ずかしながら、発足当初は相手を打ち負かす議論をしていて、白熱して部活中に生徒同士がけんかになってしまうことも」と、打ち明ける。
他校と合同練習を行う中で相手の話を「聞く力」の大切さに気づき、「戦ったら負け。みんなが参加できる議場をつくれる人になりなさい」と強調する現在の指導に変わっていったという。今では強豪校だが、必ず生徒に伝え続けていることがある。
「大事なのは何のためにやっているのか、ぶれないこと。成果を取りにいくのではなく、そこまでのあり方や行動が重要だと考えており、『世界を自分なりに捉えなさい』『どういう人でありたいのか、そこにこの部活がどう寄与するのか自分の言葉で言えるようになりなさい』と、そこだけは先生面して言い続けています」