親の格差が生む教育格差、家庭の重要性増す背景 社会学者・山田昌弘、多様な能力が必要な時代に

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「子どもは学校に行っている間は平等でした。つまり、学校という空間に一定時間、子どもを閉じ込めていれば、学校の中での平等は達成できた。とくに学力が中心であった時代は、学校の中での平等が確保されていれば、うまくいったわけです。学校にいる時間が少なくなったため、必然的に学校外の影響が増したというわけです」

大抵の子どもにとって勉強はしたくないもの。学校に行けば、親に代わって先生が子どもを見てくれる。しかし、コロナ禍で学校が休校になることによって学校外の時間が増えた。収入が高い家庭は専業主婦の比率が高いというが、そういう家庭では子どもの動静を管理することができた。今は、こうした家庭環境が、学力以外の多様な能力を身に付けるのにも重要になっているという。

「ITを使うにもインテリジェンスを持っている親が必要だということです。日頃からパソコンを使っている親がいる家庭と、そうでない家庭とでは、子どもにITスキルを身に付けさせるのにも、その対応に違いが出てきます。教養のある親ならサポートすることができますが、まったくパソコンに触れたこともない親も世の中には少なからずいます。パソコンと無縁な親の元で育った子どもは、ある程度成長してからそのスキルをゼロから身に付けなければならないわけです」

子どもにしても、もし親が日頃から英語でリモートワークをしていれば、世の中にはそうした仕事があるということがわかる。だが、親が働いている姿を見たことがなかったり、親やその周辺が教えたりしなければ、世の中に英語を使わなければできないような仕事があることもわからない。英語ができて当たり前だと思って育つ子と、できないことが当たり前だと思って育つ子では、英語習得に対する「やる気」の濃淡にもおのずと違いが生じてくる。

残念ながら、現代に必要な英語力、コミュニケーション力、デジタル力、人脈力といった能力は、学校に通っているだけでは身に付けることがなかなか難しい能力だという。つまり、コロナ禍は、学力というよりは、親の格差が子どもの教育格差につながる実態を浮き彫りにし、学力以外の格差を拡大させたと山田氏は言う。

「昔は、親の学歴や収入がそれほどよくなくても、一流校に入って周囲の仲間に恵まれると学力以外の多様な力も身に付けることができた。しかし、今は一流校に入る時点で格差が広がっているし、学校を出た後の就職先や仕事のやり方にも影響が出ています。今は公務員試験でも面接の比重が高まって、学力だけでは合格しにくくなっています。昔はコミュニケーション力がない人でも相応の働き口があったのですが、いくら学力があっても口下手でコミュニケーション力がない人は面接で落とされるケースが増えているのです」

相対的貧困にある子どもから「やる気」が生まれない理由

これはIT技術に取って代わられるような中間的な仕事が減少していることが大きく影響している。

例えば、そろばんの仕事がパソコンに置き換わったように、コツコツと経験を積み上げて、誰でも同じ結果を出せるような仕事が機械に置き換えられた結果、プログラムを作る仕事か、逆にパソコンに数字を打ち込むような機械に使われる仕事かの両極に大きく分かれ始めている。徐々に生産性の高い仕事と生産性の低い仕事に分かれているのが、現代社会の特徴なのだ。

そこで欧米では生産性の低い仕事は移民、生産性の高い仕事は自国民に任せる形を取ったが、日本では生産性の低い仕事でも、大半を日本人がやっているという状況になっている。とくに地方は課題が少なくない。

「都市と地方で見ても、地方の企業の生産性は大きく落ちています。それは地方が生産性の向上を目指さず、秩序だけを守ろうとしているからです。私も内閣府の男女共同参画会議の民間議員として何度も指摘してきたのですが、コネ採用が横行し、仕事も保守的な姿勢のまま。これまでどおりにしていれば何とかなる。そうした地方ほど徐々に衰退しているのです」

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