東京港区「デジタル教科書」クラウド利用の実際 紙かデジタルか、二者択一にならない深いワケ

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こうした中、学校のICT化について都内でもいち早く取り組んできたのが、港区教育委員会だ。港区全体で小学校18校、中学校10校を管轄するが、すでに20年10月までにすべての児童・生徒に端末を配布し終わっている。児童・生徒と先生のものを合わせると、その数は約1万3000台。電子黒板についても全教室への配備を完了させた。一連のプロジェクトを主導してきた港区教育委員会指導主事の下橋良平氏は、御田小学校で行われたデジタル教科書を使用した授業を参観しながら、次のように語る。

「子どもたちは大人の発想を簡単に超えていきますね。子どもたちはすぐに慣れてしまう。しかも、紙の教科書では注意散漫だった子どもも、デジタル教科書なら集中しやすいようです。低学年では教科書に赤線をきれいに引くにも個人差がありますが、デジタルですと、そうした必要なスキルのベースが整ったところから学習できます。その一方で先生は、これまで挙手して発言できなかった子どもたちの理解度をタブレットでリアルタイムに把握し、指導することができる。デジタル教科書には大きなメリットがあると感じています」

例えば、国語の授業では「情景描写は青色」「心理描写は黄色」で線を引くなどの書き込み、消去が繰り返し簡単にできる

港区では、指導者用デジタル教科書についても14年からいち早く試験導入を始めており、タブレットも18年秋から一部の小学校の児童たちに試験配備してきた実績がある。

「指導者用デジタル教科書の導入は、授業のやり方が劇的に変わるという感触を持ったことが出発点です。18年には児童・生徒向けタブレットの一部導入に合わせ、試験的に指導者用教科書を子どもたちにも使ってもらいました。しかし、インストールされたデジタル教科書はデータが重たくて、なかなか動かない。そのうえタブレット自体の不具合も重なり、苦労しました。そうした経験を生かし、本番では起動も早く直感的に使えるタブレットを選び、クラウド版のデジタル教科書を選択することにしたのです」

港区では区内の学校で21年4月から国語と算数のデジタル教科書を使った授業を本格スタートさせた。だが、早くもそこからは課題も見えてきている。例えば、デジタル教科書を使うためには、認証やネットワークの設定などがあり、使い始めるまでの環境整備が必要になる。先生たちも新たな作業が増えている状況だが、それだけではない。

港区教育委員会 指導主事 下橋良平(しもはし・りょうへい)

「まだまだ研究が必要だと考えています。先生たちの授業技術が、デジタル教科書に追いついていない部分があるからです。どのように活用すればいいのか。先生たちは先行して指導者用デジタル教科書を使ってイメージをつかんでいますが、子どもたち一人ひとりに対してどう使っていくのか。未知数だといえます。また、子どもたちの学習履歴をどのように生かして、個別最適化につなげていくのか。まだまだ多くの課題があると考えています」

デジタル教科書の本当の能力を発揮する教科は?

ただ、すべての授業がデジタル教科書に取って代わるわけではないとも言う。

「紙か、デジタルか、二者択一にはならないということです。両方大事であると考えています。まず予算として考えれば、iPad用のタッチペンは1本1万5000円しますが、子どもたちはよくなくします。そのため、個別に購入させるようにしています。また、紙と比べ、デジタル教科書のほうが圧倒的にコストもかかります。1教科1人当たり約1000円かかるとすれば、それを5教科に広げれば、それだけ負担は大きくなる。ネットワーク整備など、そもそもICT導入には大きなコストがかかります。その教育効果を数値化することも難しく、いずれも区の財政部局との調整が必至となるのです」

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