一歩先行く渋谷区「小中学校1人1台端末」の今 Surfaceに更新、教育と行政データの連携へ
とくに、安全のために制限を課す場合は注意が必要です。渋谷区には「自分の責任で自由に遊ぶ」公園があります。今や公園では、危険だからという理由でボール遊びも、水遊びも禁止され、何もできない場所になってしまったからですが、「自分の責任で自由に遊ぶ」公園は区内で最も人気のある公園となっています。行政がリスクをおそれ、安易に制限、禁止をすれば、何もできなくなってしまう。不適切な利用などをおそれて、端末を自宅に持ち帰ることを禁止する自治体も多いですが、渋谷区ではセキュリティーの担保や、利用時間の制限をしたうえで、どんどん持ち帰ってもらっています。
使い勝手と安全のバランスに課題、ログを使って端末の利活用を推進
――導入後の3年間で、どんな課題を感じましたか。
最初に導入した端末は、子どもたちが落として壊さないように、不適切なサイトにアクセスしないように、とリスクを重視しすぎた結果、丈夫だけど大きくて重い端末になってしまいました。インターネットの利用もアクセスできるサイトの制限が厳しすぎるなど、使い勝手が悪くなったことも課題でした。しかし、そうした反省や知見を3年にわたって蓄積してきたことは、区にとっても大きな財産となりました。使い勝手について教員から意見をもらえたことで、消極的、懐疑的な先生も含めて区の教育ICT改革への関与や理解を促せた面もありました。

ICT教育の推進における最大の課題は教員のスキル向上でしょう。ICTが苦手で端末操作に戸惑う先生や、教育現場でのICT活用そのものに懐疑的な先生もいます。ある程度は、ICTの利便性を実感してもらうことで、時間が解決してくれますが、優れた活用事例の収集や、研修などを通してノウハウ共有の仕組みを整え、全体の底上げを図ることが重要です。
――教員に端末活用を促す環境をどのように醸成していますか。
渋谷区教育委員会では教育データの収集・活用もしており、例えば、端末の利用ログ(履歴)を把握、分析し、学校とも共有しています。子どもたち全員に配付している以上、学校・学級間で利用状況にあまり大きな差がつかないようにしなければならず、そのデータを基に、教員には、積極的に子どもたちの利用や授業での活用を進めるよう促しています。また利用状況のデータは、保護者も知りたいと思うはずです。それぞれの区立小中学校には、地域住民や保護者が参画するコミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)を設置しているので、その中でログを含めたデータを公開すれば、学校側には利用促進に向けたインセンティブになり、地域や保護者には学校のICT教育への関わり方を考えてもらえると期待しています。