偏差値教育で「自信失った子」伸ばす学校の素顔 民間出身校長が仕掛ける札幌新陽高校の大変貌

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「やりなさい」ではなく「うれしかった」。その言葉が、それまで学校で評価されてこなかった生徒たちを変えたのだ。出入り自由にした校長室に話をしにくる生徒も増えた。

「生徒があいさつしてくれるのがうれしくて、毎日楽しい」という言葉が生徒たちを変えた

「テレビ局のカメラマンになりたい」という女子生徒には学校紹介の動画制作を任せた。完成したのは、施設紹介のようなありきたりの動画ではなく、生徒や教員の何げない表情や笑顔を撮影した生徒の視線で追ったもの。学校の一員になった気分が味わえるようなその動画が全校集会で披露されると、生徒が食い入るように見つめた。勤続20年以上の教頭が「こんなに体育館が静かになったのは初めて」と言うほどだった。

従来の偏差値重視の教育に合わない子を伸ばす学びとは

変化したのは生徒たちだけではなかった。

「僕が来たばかりの頃、先生たちは頻繁に決済を求めにきました。でも、その内容は一般生活でいえば食事中にいちいち『水を飲んでいいですか?』と確認するようなもの。『先生はどう思う?』というやり取りを重ねたうえで権限を委譲していきました。『何かあっても僕が最後に謝ればいいからやってみたらいいんじゃない?』と言って」

教員をエンパワーメントするとともに、課題解決型の学びを重視するようにしていった。

「これまでの偏差値重視の教育に合わない子、がんじがらめの教育になじめない子は探究型の学びで自分を表現できるようになるんです」

その内容は実にユニークだ。例えば、消費が落ち込む牛乳をテーマにしたワークショップ形式のオンライン授業を業務提携しているコープさっぽろと開催するなど、企業と連携して実践的な学びを行っている。また、自分で開拓したインターン先にIllustratorで自作した名刺を持っていくという授業もある。

業務提携しているコープさっぽろの契約農家を訪れた生徒たち(左)。アイヌ文化を学ぶ授業の一環で家庭科ではジビエ料理に挑戦した(右)

さらに、同校に設置された探究コースでは3カ月間、全教科でアイヌ文化を学ぶ授業を実施した。これは、北海道初の国立博物館であるウポポイ(民族共生象徴空間)に行った生徒が自主的にゼミをつくって学び始めたことから、教員たちがカリキュラムに取り入れようと始まったものだ。

こうした課題解決型の学びを支えるツールの1つとして、教員と生徒に1人1台Chromebookを配付している。ICTを利用すれば一人ひとりに合った問題も提供できるため、同校が重視している自律学習がしやすい。

まさに20年2月の緊急事態宣言翌日のオンライン授業は、これまでの蓄積があって実現したものだったのだ。その様子をネットで発信した当時2年生の市村隼汰さんは、11月に行われた未来の教育イノベーター会議で平井卓也デジタル改革担当大臣らに、同校のオンライン教育についてプレゼンテーションを行う機会を得た。

札幌新陽高校では教員と生徒に1人1台Chromebookを配付。それが20年2月の緊急事態宣下で生きた

オンライン入試が問う学校と生徒の「本気で挑戦する覚悟」

コロナ禍を機に多くの学校で進んだ教育のオンライン化。札幌新陽高校では授業や校務管理に加え、21年度の入試もすべてオンラインで実施された。ペーパーテストはなく、面接と課題のみの入試だ。既成概念を覆すようなこの入試では、生徒のどんなところを見ているのだろうか。

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