超天才「台湾IT大臣」高校生の疑問にどう回答? オードリー・タン、頭の中身がすごかった
オンラインであろうと近くの大学であろうと、私はいろいろな人と一緒に学んできました。ただ、私が誰と一緒に学ぶかは、自分で毎日決めるのです。そのメリットは、長期的な計画や仕事、例えば起業をする際、関係のないことに邪魔されないという点です。デメリットは、毎日、朝起きた後に、何かを学びたいという意欲がなければ何も学ぶことができないということです。
これからの社会では、学校とは、学びたいと思うすべての人々のための資源であり、何歳から何歳までしか学んではいけないという縛りがないものになっていくと思います。何かに興味を持った人は誰でも、15~17歳の人だけでなく、50歳でも60歳でも、70歳でも、例えばコミュニティーカレッジや社会人課程、あるいは台湾で議論されている実験大学のように、文化遺産、遺跡修復などの特定の専門を学ぶ学位課程を履修するためのさまざまな方法を利用できるようになる。つまり、私たちがいう大学はより多元的なものになっていくはずです。

――基礎科目の学力主義教育を重視するべきか、あるいは創造力のある、柔軟で自由な考え方を養うための教育を重視するべきかという議論が行われています。そのため、今の学校は中途半端な状況になっていると感じています。答えのない課題に対応するために、今高校生が身に付けるべき真の力とは何でしょうか。(熊本高校)
少なくとも「問題(課題)解決型学習」(PBL、Problem Based Learning)というプロジェクト型の学習による問題解決を基礎とした学習方法でなければ、何も身に付けることはできません。テストのためだけの勉強では何も覚えられないというのが私個人の考えです。
私の友達の誕生日に動画を作って誕生日を祝うことを例にして考えてみましょう。この中では、当然基礎科目に当たる動画制作の知識が必要ですね。それがないと、どのように作ればよいのかさえわかりませんから。とはいえ、その基礎科目の知識とともに、創造力や自由な発想も必要とされます。そこで、自分と相手とのこれまでの関係や共に過ごしてきた経験を基に、どのようなシーンを組み込めば相手が喜んでくれるかといったことを自由に考えていきます。そして、関連する動画をネット上でたくさん見ながら、構成などの考えをまとめていきます。
つまり、飛行機が両翼を持ってこそ飛び立てるように、どれか1つの翼だけを選ぶことはできないということです。基礎科目の知識がなければ創造力という養分を得られません。また、創造力を発揮できる自由な環境がなければ、すべて同じような動画になってしまう。自分自身とその周りにいる人たちとで一緒に創造力を働かせることのできるような「共同創造」の環境を確保することこそ、PBLのテーマです。
みんなで同じ問題を解決しようとすれば、おのずと自分の基礎能力では足りない部分を補おうとしますし、自由な創造力やコミュニケーション能力で足りない部分をも補おうとします。そこで大事なことは、よいテーマを見つけるということです。
――日本の高校生の中には、自分が本当に何をしたいのか、どんな能力を持っていて何ができるのか曖昧だと考え、「社会のために貢献したい」と思っていても行動になかなか移せないと悩んでいる人がたくさんいます。こんな悩みのすべての原因が今の教育制度にあるというわけではないとも思っています。教育を受けるわれわれの側からこの状況を打破し、自分たちが持つ能力に気づいて、それを生かしていくには何をすべきだと考えますか。(熊本高校)
1つ大事なことは、学校だけを自分の学習の場と考えず、学校の周りにあるコミュニティーも学校の一部だと考えることです。
今は実験的な教育を行う学校も存在し、例えばミネルバ大学という大学では、特定の人たちと特定の建物の中だけで学びを進めるのではなく、毎学期1つの都市を選び、その都市全体を学校の一部とみなしています。
例えば持続可能な開発目標(SDGs)には169のターゲットがありますが、169のターゲットで1つも興味がないということはないでしょう。興味があるターゲットを見つけたら、自分のいる地域でこのSDGsを解決しようとしている人たちを調べ、彼らと時間をかけて付き合うことです。私のように中学校から脱落してからすべての時間を社会活動に費やせるようになったのとは違い、今からでもすぐにできる具体的な行動で貢献できるはずです。
多くの高校でも最近、コミュニティーでの仕事や地方創生の仕事を学校のイベントの1つにしています。皆さんも高校にいながらにして地方創生やSDGsに関するイベントをカリキュラムの一部に取り入れられないかと、高校の先生とよく話し合ってみてはいかがでしょうか。もしかしたら先生方も、「あなたが興味を持っているのなら一緒に企画してみましょう」と前向きに考えてくれるかもしれません。