40兆円の日銀ETF、「個人に直接譲渡」案が急浮上 香港では事例あり、日本で実施するリスクは?
2013年春に黒田東彦氏が日銀総裁に就いて、間髪を入れずに断行した量的・質的緩和、いわゆる異次元緩和は、バズーカ砲に例えられたように、デフレにあえぐ日本経済を下支えする効果は絶大だった。
消費者物価指数(CPI)はお世辞にも目標とされた2%には到達できていないが、マネタリーベースの拡大および長期国債、ETFなどの買い取りは市場に安心感を醸成した。
とりわけ株式市場は円安効果も手伝い、大きく上げに転じた。異次元緩和を契機に株式市場はリスクオフからリスクオンに転換したように思える。「買い本尊として日銀が控えていることは何よりの安心材料」(市場関係者)というわけだ。
時間とともに大きくなった副作用
しかし、時間の経過とともに異次元緩和の効果が薄れる中、日銀は順次追加の緩和策に踏み込んだ。マイナス金利の導入はその代表だ。よりカンフル剤的な施策に踏み込むにつれ、副作用も大きくなっていった。金融機関の収益圧迫はその象徴的な事象だ。そこにコロナ禍が追い討ちをかけた。
日銀は今年3月、3年半ぶりに追加緩和に踏み切った。直前にFRB(連邦準備制度理事会)が緊急の追加利下げに踏み切り、政策金利をゼロ%にすることを決めたことを受けた措置でもあったが、柱は以下のとおりだ。
- ① 年間6兆円をメドに買い上げているETF(上場投資信託)を2倍の12兆円に増やす。
- ② REIT(不動産投資信託)の買い入れ額を年間900億円から2倍の年間1800億円に増額する。
- ③ 企業への直接的な資金繰り対策として社債やCP(コマーシャルペーパー)の購入について、9月末までに2兆円増す。
- ④ 民間金融機関が融資を増やすよう資金供給の枠組み(8兆円規模)を創設し、9月末までゼロ%で貸し出す。
コロナ禍を受けて日銀がETFの買い入れを増額するなど、追加緩和策に踏み出したことで、これまでマグマのようにたまり続けてきたある疑念が頭をもたげた。日銀のバランスシート悪化への懸念だ。
日銀の買い入れたETFはこの時点で30兆円を超えており、「日経平均株価が1万9500円を割り込むと含み損になる」と黒田総裁が参議院の予算委員会で発言したことも不安をあおった。
株価も下落基調で、このままで推移すれば、いずれ日銀は一般企業でいう総資産を自己資本等(資本金、引当金勘定、準備金)で割った自己資本比率がマイナスに転じ、債務超過に陥るのではないかと危惧された。
もちろん、日銀は日銀券を発行する発券銀行であり、自己資本を銀行券で割った自己資本比率は8%超を維持している。いずれにしても、こうしたリスクを冒してでも日銀が追加緩和に踏み込まざるをえないところに新型コロナウイルスの影響の深刻さが見て取れる。
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