独学?習う?プログラミング授業の準備と現実 すでに必修化、子どもや学校は何をすべきか?
「小学校でも高学年ともなると、大人顔負けの体力や技術を持つ子がいます。そこで、先生たちは、一緒にプレーするのではなく『サッカー部の○○さんがまず蹴ってみて。ほかのみんなはそれをお手本にしよう』といった形で進めることが多いです。プログラミング教育も同じようなスタンスでいいんです。もしかすると、それまで目立たなかった子が、プログラミングのお手本を見せることによってクラスの中心になるような、そんな体験につながるかもしれません」
無理に教えず、共に学ぶ
とはいえ「手取り足取りしっかり教えなければ」と前のめりになる教員も多いだろう。責任感の強い教員ほど、その呪縛から逃れられない。先行して研究授業などを進めている学校は、どのように対応しているのか。利根川氏は、興味深い事例を示しながら、もっと気楽なスタンスで臨むべきだと説く。
「ある小学校の教頭先生が、先生たちに『プログラミング教育においては、子どもたちからリードするのは一歩だけでいい。そのくらいの気軽な心構えでやりましょう』と声をかけていました。算数や国語に関しては、児童より百歩、もしくは千歩以上リードしているでしょうけれども、プログラミング教育はどの先生も新しく学ぶわけですから、リードできるはずがありません。児童からほんの一歩だけ先に進めばいいと思えば気も楽でしょうし、『先生も頑張って学んでいる』という姿を見せることも大切ではないでしょうか」
無理に教えず、共に学ぶ――。従来以上に主体的な取り組みをする児童の姿が見えてくるようだ。松田氏は、そこからさらに一歩進み、プログラミング教育をSociety 5.0時代の新たな学びへシフトするためのきっかけとして考えてほしいと訴える。
「今までは、先生が蓄えた知識や技能を子どもに授けていくのが教育でした。でも、これからはコンピューターによる技術革新が加速度的に進んで、多様性や複雑性が増していきます。言ってみれば、雑木林の中でしなやかに生きていく力が求められるのです。どうやったら思いどおりに動かせるかを主体的に考えるプログラミング教育は、プログラミングを学ぶというよりも、そうした『新しい学び』へのトリガーになると考えています」

東京学芸大学卒業、上越教育大学大学院修士課程修了。早稲田大学大学院博士後期課程在籍中。東京都公立小学校教諭、狛江市教育委員会主任指導主事(指導室長)、小学校校長を3校歴任後辞職。現在総務省地域情報化アドバイザー、群馬県ICT教育イノベーションプロジェクトアドバイザー、金沢市プログラミング教育ディレクター等も務める。著書に『学校を変えた最強のプログラミング教育』(くもん出版)、『プログラミングでSTEAMな学びBOOK』(フレーベル館)がある
(撮影:今井康一)
厳しい環境で生き抜く力が養えるからこそ、児童に「委ねる」ことが大切だとも松田氏は強調する。